1 はじめに

農業において、病害虫の発生は作物の収量や品質に大きな影響を与えます。適切な防除を行わなければ、甚大な被害を受けるだけでなく、農業経営そのものが脅かされる可能性もあります。
病害虫の防除には、「適切なタイミングで対策を行うこと」が重要です。発生初期に素早く対応することで、被害を最小限に抑えられます。また、近年ではスマート農業技術の発展により、AIやドローンを活用した最新の防除方法も普及してきています。
本記事では、病害虫防除の基本から最新の防除技術までを詳しく解説します。農薬に頼るだけでなく、**生物的防除や物理的防除など、多様な手法を組み合わせた「総合的病害虫管理(IPM)」**の重要性にも触れ、持続可能な農業経営を支援します。
病害虫のリスクを最小限に抑え、安定した農業生産を実現するために、ぜひ最後までご覧ください!
2 病害虫防除の基本
病害虫防除は、農作物の生産を安定させるために欠かせない作業です。適切な防除を行うことで、収量の減少を防ぎ、農作物の品質を維持できます。 しかし、防除の方法は多岐にわたり、農薬だけに頼るのではなく、生物的・物理的な防除も組み合わせることが重要です。
本章では、病害虫の発生メカニズムや、基本的な防除の考え方を解説します。
2.1 病害虫の発生メカニズムとは?
病害虫は、作物の生育環境や天候条件によって発生しやすくなります。以下の3つの要因が重なると、病害虫の発生リスクが高まるため、事前にリスクを把握して対策を講じることが大切です。
病害虫が発生しやすい3つの要因
要因 | 影響 |
病原体・害虫の存在 | 病原菌や害虫の卵・幼虫が農地に生息している |
環境条件 | 高温多湿・乾燥・風通しの悪さなど、病害虫が好む条件 |
宿主(作物)の状態 | 作物の成長が弱っていると、病害虫が発生しやすい |
病害虫の発生を予測するためには、これらの要因を日々観察し、病害虫が発生しやすい環境になっていないかを確認することが重要です。
病害虫の発生要因と予測(農林水産省)
2.2 防除の基本的な考え方
病害虫防除は、発生してから対応する「事後防除」ではなく、事前に対策を講じる「予防的防除」が基本です。
予防的防除と事後防除の違い
防除の種類 | 特徴 | 具体的な方法 |
予防的防除 | 病害虫の発生を未然に防ぐ | 適正な栽培管理、防虫ネット、天敵活用 |
事後防除 | 病害虫発生後に対処する | 農薬散布、捕殺、殺菌処理 |
特に、近年ではIPM(総合的病害虫管理:Integrated Pest Management)が重要視されています。これは、化学農薬に頼りすぎず、生物的・物理的な防除方法を組み合わせることで、環境負荷を抑えながら病害虫を管理する手法です。
総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針について(農林水産省)
2.3 病害虫防除の主な方法
病害虫防除には、化学的防除・生物的防除・物理的防除の3つのアプローチがあります。それぞれの特徴を理解し、組み合わせて実践することが重要です。
① 化学的防除(農薬の使用)
農薬は即効性があり、短期間で病害虫を抑える効果が高いですが、過剰な使用は耐性菌の発生や環境負荷の増加につながるため、適切な散布が必要です
農薬の適正な使用(農林水産省)
② 生物的防除(天敵や微生物の活用)
化学農薬の使用を抑えるために、天敵昆虫や微生物を活用して病害虫を防ぐ方法も注目されています。
【代表的な生物的防除の例】
・天敵昆虫の利用(クモや寄生バチを放飼することで害虫を減らす)
・微生物農薬の活用(バチルス菌やウイルス製剤で病害虫を抑制)
土着天敵を活用する害虫管理最新技術集と事例集(農研機構)
③ 物理的防除(防虫ネット・トラップの活用)
物理的防除は、防虫ネットやフェロモントラップを活用し、病害虫の侵入を防ぐ方法です。
【代表的な物理的防除の例】
・防虫ネットの設置(アブラムシ・コナジラミ対策)
・フェロモントラップ(特定の害虫を誘引し、捕殺)
3 病害虫防除のタイミングとポイント

病害虫防除は、ただ農薬を散布するだけでは十分ではありません。効果的な防除には、病害虫の発生を予測し、適切なタイミングで対応することが不可欠です。 発生の兆候を見極め、作物の生育ステージや気象条件に合わせて対策を講じることで、被害を最小限に抑えることができます。
また、防除のタイミングを誤ると、農薬の効果が半減したり、病害虫の増殖を許してしまうこともあります。本章では、病害虫の発生を見極める方法と、防除の最適なタイミングについて詳しく解説します。
3.1 病害虫発生の兆候を見極める
病害虫の防除を適切に行うためには、発生の兆候を早期に察知し、すぐに対策をとることが重要です。多くの病害虫は、一定の条件下で急激に増殖するため、初期段階での発見がカギを握ります。
例えば、病害の場合、葉に小さな斑点が現れる、茎が変色する、異常な萎れが見られるなどの兆候があります。害虫被害では、葉に食害の痕跡がある、茎が折れている、葉の裏に小さな卵が見つかるといったサインが確認できます。
作物ごとに発生しやすい病害虫は異なりますが、共通するポイントとしては、葉や茎の変化、害虫の糞や卵の有無、作物の生育異常などを観察することが挙げられます。圃場(ほじょう)を定期的に巡回し、病害虫の発生状況をチェックすることで、早期対応が可能になります。
作物別・病害虫発生リスク
以下のような作物ごとに発生しやすい病害虫を把握し、事前に対策を講じましょう。
作物 | 主な病害 | 主な害虫 | 発生しやすい時期 |
イネ | いもち病・紋枯病 | カメムシ | 5月〜9月 |
トマト | 灰色かび病・うどんこ病 | アザミウマ | 4月〜10月 |
きゅうり | ベト病・うどんこ病 | コナジラミ | 4月〜9月 |
キャベツ | 根こぶ病・黒腐病 | アオムシ | 3月〜11月 |
3.2 防除の最適なタイミング
病害虫の防除には、主に「予防的防除」「発生初期の防除」「拡大防除」の3つのタイミングがあります。それぞれの段階で適切な対応を行うことで、効果的に病害虫を抑制できます。
① 事前防除(予防段階)
病害虫が発生する前に、防除対策を行うことができれば、作物への被害を大幅に減らすことができます。特に、病原菌が土壌に残りやすい病害(いもち病やうどんこ病など)や、害虫の卵が越冬して発生するケースでは、作付け前の土壌消毒や、播種前の種子消毒を徹底することが有効です。
② 発生初期の防除(早期対策)
病害虫が発生した場合、発生初期に素早く防除を行うことで、被害の拡大を防ぐことができます。 例えば、葉にわずかに病斑が現れた段階で薬剤を散布すれば、被害を局所的に抑えることができます。しかし、対策が遅れると、病害が拡大し、圃場全体に広がるリスクが高まります。
③ 繁殖期・拡大期の防除
病害虫が広がり始めた場合は、迅速かつ適切な防除が求められます。この段階では、すでに被害が広がっているため、農薬の使用が必要になることが多いですが、耐性菌の発生を防ぐために、ローテーション散布を行い、異なる系統の農薬を交互に使用することが推奨されます。
3.3 病害虫防除の成功のポイント
病害虫防除を成功させるには、以下の3つのポイントを意識することが重要です。
1. 天候を考慮して防除を実施する
病害虫の発生は、気温・湿度・降雨などの気象条件に大きく左右されます。 例えば、高温多湿の環境ではカビ系の病害が発生しやすく、乾燥時には害虫の活動が活発化します。
2. 農薬だけに頼らず、複数の防除手法を組み合わせる
農薬の過剰使用は、耐性菌の発生や環境負荷の増加につながります。
- 天敵昆虫を活用する(アブラムシ対策)
- 防虫ネットやフェロモントラップを利用する
- 農薬はローテーション散布し、耐性菌発生を抑える
3. 定期的な圃場(ほじょう)チェックを行う
病害虫は、初期段階で発見し、防除することが最も効果的です。
- 週に1回以上、作物の状態を細かくチェック
- 葉の裏や土壌を観察し、病害虫の兆候を早期発見
- 防除計画を作成し、適切な時期に対応
4 最新の病害虫防除技術

農業の現場では、病害虫防除の効率を向上させるために、最新のテクノロジーを活用した防除技術が急速に発展しています。AIによる病害虫予測、ドローンによる農薬散布、生物的防除の進化など、さまざまな革新的技術が導入されており、環境への負荷を抑えながら防除の精度を高めることが可能になっています。
ここでは、最新の病害虫防除技術の具体例を紹介し、より効果的な防除方法を考えます。
4.1 スマート農業を活用した病害虫防除
AI・ビッグデータによる病害虫発生予測
近年、農業分野ではAI(人工知能)を活用した病害虫予測システムが導入されています。これにより、圃場の環境データ(気温・湿度・降水量)や病害虫の発生履歴をAIが解析し、病害虫が発生しやすいタイミングを予測できるようになりました。
【導入メリット】
・防除の適切なタイミングを予測し、無駄な農薬使用を削減
・天候データをもとに、病害虫発生リスクを事前に把握できる
・スマートフォン・PCでリアルタイムの情報確認が可能
ドローンを活用した農薬散布
ドローンを使った病害虫防除は、特に広範囲の農地を管理する場合に有効な技術です。従来の農薬散布に比べ、効率的に均一な散布ができるうえ、農薬の使用量も削減できるメリットがあります。
【ドローン防除の特徴】
・短時間で広範囲の農薬散布が可能(特に水田・果樹園向き)
・作物の生育状況に応じて、ピンポイントで防除できる
・作業者の負担を軽減し、省力化を実現
最近では、AIカメラを搭載したドローンが病害虫の発生場所をリアルタイムで解析し、被害が出た箇所だけに農薬を散布する技術も登場しています。これにより、農薬のムダを減らしながら、高い防除効果を得ることができます。
4.2 生物的防除(天敵や微生物を活用した防除方法)
化学農薬の使用を減らすために、近年では天敵昆虫や微生物農薬を活用した「生物的防除」が注目されています。これにより、環境負荷を低減しながら病害虫防除を行うことが可能です。
天敵昆虫を活用した防除
一部の害虫には、それを捕食する天敵昆虫が存在します。これらを農地に導入することで、害虫の発生を抑えることができます。 例えば、温室栽培のピーマンやトマトでは、アブラムシの天敵である「寄生バチ」を利用することで、農薬散布を削減する事例が増えています。
【天敵昆虫を活用した防除の例】
・コナジラミ対策 → 天敵昆虫「タイリクヒメハナカメムシ」の導入
・アブラムシ対策 → 「寄生バチ」を利用した防除
・ハダニ対策 → 「チリカブリダニ」の放飼
天敵昆虫の導入は、すぐに効果が現れるわけではありませんが、長期的に安定した防除効果が期待できるため、環境に配慮した持続可能な農業の実現につながります。
生物的防除法(森林再生テクニカルノート)
微生物農薬の活用
近年、化学農薬の代替手段として、微生物由来の農薬(バイオ農薬)が普及しています。微生物農薬は、病害菌の増殖を抑えたり、害虫を寄せ付けない成分を含んでいるため、環境にやさしい防除手段として注目されています。
代表的な微生物農薬には、以下のようなものがあります。
微生物農薬の種類 | 防除対象 | 特徴 |
バチルス菌製剤 | うどんこ病・灰色かび病 | 天然の抗菌作用で病害菌を抑制 |
ウイルス製剤(核多角体ウイルス) | アオムシ・ヨトウムシ | 害虫の体内で増殖し、駆除する |
糸状菌製剤(ボーベリア菌) | コナジラミ・カメムシ | 害虫に感染し、殺虫効果を発揮 |
微生物防除剤とは(日本微生物防除剤協議会)
4.3 環境負荷を抑えた防除技術
最新の病害虫防除技術では、環境にやさしい防除手法が強く求められています。例えば、フェロモン剤を活用した害虫誘引・抑制技術では、害虫の繁殖を抑えることで、殺虫剤を使わずに防除が可能です。また、ナノ粒子農薬の開発により、少量の農薬で高い防除効果を発揮できる技術も進化しています。
環境保全型農業関連情報(農林水産省)
5 まとめ

病害虫防除は、農作物の収量や品質を守るために欠かせない作業です。しかし、ただ農薬を散布するだけではなく、発生の兆候を見極め、適切なタイミングで防除を行うことが重要です。
本記事では、病害虫防除の基本から最新技術までを解説しました。
まず、防除の基本として、予防的防除・発生初期の防除・拡大防除の3つの段階を意識し、最適なタイミングで対策を行うことが大切です。また、防除の方法としては、化学農薬だけでなく、生物的防除や物理的防除を組み合わせることで、環境負荷を抑えながら効果的に病害虫を抑制できます。さらに、最新技術の進化により、AIを活用した病害虫予測システムや、ドローンによる精密散布、天敵昆虫や微生物農薬の活用が可能になっています。これらをうまく取り入れることで、労力を削減しながら効率的な防除を実現できます。
✔ 病害虫は発生の兆候を見極め、早期に防除することが重要
✔ 防除のタイミングを適切に見極め、予防的防除を徹底する
✔ 化学農薬だけでなく、生物的・物理的防除を組み合わせる
✔ 最新技術(AI・ドローン・微生物農薬)を活用して効果的な防除を実施
✔ 持続可能な農業のために、環境に配慮した防除方法を選択する
これからの農業では、従来の防除方法に加えて、新しい技術を活用することで、より効率的で持続可能な病害虫防除を実現することが求められます。 病害虫の被害を最小限に抑え、安定した農業経営を行うために、本記事で紹介した対策をぜひ実践してみてください!