1 はじめに

近年、農業分野の人材確保が大きな課題となっています。高齢化や後継者不足により、多くの農業法人や個人農家が「働き手が足りない」という現実に直面しています。一方で、都市部から地方への移住希望者や、農業に興味を持つ若い世代も増えており、「農業の求人市場」自体が変化しているのも事実です。
農業の求人市場では、「給与や働き方の見直し」「短期雇用の増加」「外国人労働者の活用」といった新しい採用トレンドが出てきています。今後、農業で人材を確保するためには、従来の雇用スタイルにこだわらず、新しい働き方を取り入れることが重要です。
本記事では、農業求人市場の現状や採用動向、求職者が求める条件、採用成功のポイントを詳しく解説します。
「どのようにすれば人材を確保できるのか?」「採用後の定着率を上げるには?」といった疑問を持つ農業従事者の方に役立つ情報を提供します。
2 農業法人の求人市場の現状と課題
日本の農業求人市場は、近年大きな変化を迎えています。農業従事者の高齢化が進み、若い世代の確保が急務となっている一方で、都市部から地方への移住者や新規就農希望者が増えるなど、求人市場の構造自体も変わりつつあります。
しかし、実際には「求人を出しても応募が集まらない」「せっかく雇っても定着しない」という悩みを抱える農業法人も少なくありません。本章では、農業法人の求人市場の現状と、その背景にある課題について詳しく解説します。
2.1 農業界の人材不足の実態
農業就業者の減少と高齢化の加速
農業分野における最も大きな課題の一つが、就業者の減少と高齢化です。以下のデータからも分かるように、農業に従事する人は年々減少し、65歳以上の割合が大きくなっています。
基幹的農業従事者(農林水産省)
年度 | 総農業就業者数 | 65歳以上の割合 |
2015年 | 約175万人 | 61% |
2020年 | 約136万人 | 69% |
2023年 | 約120万人 | 72% |
このように、若年層の就農者が減り、高齢の農業従事者が増加しているため、後継者不足や労働力の確保が深刻な問題になっています。
求職者のニーズとのギャップ
農業法人が抱える求人の悩みの一つに、求職者の希望と実際の労働環境のギャップがあります。
- 安定した収入(給与の改善、社会保険の完備)
- 労働時間の見直し(長時間労働の解消、週休2日制の導入)
- キャリアアップの可能性(研修制度、独立支援制度)
- 地域移住支援(住居の提供、移住補助)
農業に興味を持つ求職者は増えていますが、「給与が安い」「休みが少ない」「未経験者へのサポートが不足している」などの理由で定着しないケースも多く見られます。
2.2 農業法人の求人市場の特徴と課題
農業法人の求人が増加している理由
農業法人は、個人経営の農家と異なり、企業として組織的に運営されるため、人材の確保と雇用の安定が求められます。
特に最近では、農業の大規模化やスマート農業の導入により、人材採用のニーズが増加しています。
- 法人化による経営の安定化(給与や福利厚生の充実)
- スマート農業の発展に伴う技術職の増加(ドローン・AI技術者)
- 輸出拡大による農産物生産量の増加(販路拡大で人手不足)
- 外国人技能実習生の活用(海外人材の受け入れ拡大)
農業法人の採用課題と解決策
農業法人が人材を確保するためには、単に求人を出すだけではなく、求職者のニーズに合った雇用環境を整えることが重要です。
- 求人の認知度が低く、応募が集まりにくい
- 短期間での離職率が高い(労働条件・定着率の問題)
- 未経験者が農業を始めるためのサポートが不足
- 求人の発信方法を見直す(SNS・オンライン求人サイトの活用)
- 給与・福利厚生を改善し、魅力的な雇用環境を提供
- 長期雇用を促進するための研修制度やキャリアプランの整備
例えば、実際に農業法人の中には、週休2日制や社宅の提供などの待遇を充実させることで、求職者の応募を増やし、定着率を向上させた成功事例もあります。
3 求職者の動向と求められる雇用環境

農業の求人市場は拡大し続けていますが、求職者のニーズが変化しており、農業法人が従来の採用手法では人材を確保しにくくなっています。
特に、農業に興味を持つ若年層や未経験者は、「給与の安定」「休日の確保」「キャリアの明確化」を求める傾向が強く、これらの要素を整えた農業法人ほど採用が成功しやすくなっています。
本章では、農業求人市場における求職者の特徴や求められる雇用環境のポイントを詳しく解説します。
3.1 農業の求職者はどんな人?動向と特徴
求職者の属性と関心の変化
農業に関心を持つ求職者の層は、大きく3つのグループに分けられます。
求職者のタイプ | 特徴 | 求める条件 |
未経験者(異業種転職組) | 都市部から地方移住、農業に興味あり | 収入の安定、休日の確保、研修制度 |
新規就農希望者 | 自分の農業経営を目指す | 経営ノウハウ、独立支援制度、試験就農 |
農業経験者(転職組) | 他の農家・農業法人からの転職 | より良い労働環境、高給与、機械化・スマート農業導入 |
近年では、未経験者や異業種からの転職者が増加している一方で、農業界の労働環境が整っていないと定着率が低くなる傾向があります。そのため、農業法人は求職者の期待に応えられる雇用環境を整えることが重要です。
3.2 求職者が農業法人に求めるポイントとは?
求職者の動向を分析すると、農業法人を選ぶ際に特に重視されるポイントが見えてきます。
①給与水準の改善|最低賃金との差をなくす
多くの求職者は、「農業=低賃金」というイメージを持っています。そのため、最低賃金レベルの給与では応募が集まりにくく、求職者の確保が難しくなります。
農業経営体の経営収支(農林水産省)
雇用形態 | 平均月収(目安) | 備考 |
正社員(経験者) | 22万~30万円 | 役職やスキルにより変動 |
正社員(未経験) | 18万~25万円 | 研修期間はやや低め |
契約社員・パート | 時給1,000円~1,500円 | 短期・季節雇用が多い |
農業法人が給与面で求職者に魅力を感じてもらうには、最低賃金を上回る給与設定や昇給制度の整備が必要です。
② 労働時間・休日の確保|ワークライフバランスの改善
「農業は長時間労働が当たり前」という考え方は、今の求職者には受け入れられにくくなっています。
- 農業は天候に左右されるため、労働時間が不規則になりやすい
- 週休1日が一般的であり、ワークライフバランスが悪い
- 家族経営では勤務時間が固定されていないことも多い
- シフト制の導入(交代勤務で休みを確保)
- 週休2日制の採用(法人経営なら実現可能)
- 繁忙期・閑散期の勤務時間の明確化(年間スケジュールの作成)
農業の「働き方改革」の推進について(農林水産省)
③ キャリアパスの整備|長期的に働ける仕組み
求職者が農業を職業として選ぶ際、「この仕事に将来性があるのか?」という疑問を持つことが多いです。そのため、単なる労働力としてではなく、キャリアアップの道筋を示すことが採用成功の鍵になります。
求職者が求めるキャリアプラン
- 昇給制度や役職の明確化(3年後・5年後のキャリアイメージを提示)
- 経営ノウハウの提供(独立希望者向けの研修プログラム)
- スマート農業の技術習得(ドローン・IT管理スキル)
これらを取り入れることで、単なるアルバイト感覚でなく、「農業でのキャリアを築ける職場」としての魅力が増します。
4 農業法人の採用戦略と成功事例
農業法人が人材を確保するためには、従来の採用方法だけでは難しくなっています。求職者のニーズに合わせた採用戦略を立て、魅力的な職場環境を整えることが重要です。
本章では、農業法人が採用を成功させるための具体的な戦略と、実際に採用に成功した事例を紹介します。
4.1 効果的な採用戦略
① オンライン求人サイト・SNSを活用する
従来のハローワークや求人誌だけでなく、オンラインの求人サイトやSNSを活用することで、より多くの求職者にアプローチできます。特に、若年層はインターネットを利用して仕事を探すことが多いため、農業求人に特化した求人サイトやSNS広告を活用することが有効です。
【おすすめの農業特化型求人サイト】
・第一次産業ネット(農業・漁業の求人に特化):https://www.sangyo.net/
・農業ジョブ(全国の農業求人情報を掲載):https://www.agrijob.jp/
・ハローワーク農業求人検索(政府公式の求人検索ツール):https://www.hellowork.mhlw.go.jp/
SNSを活用することで、農業法人の魅力をダイレクトに伝えられます。特に、InstagramやYouTubeでは、農作業の様子や社員の声を発信することで、興味を持ってもらいやすくなります。
② インターンシップ・農業体験を実施する
農業の仕事は、実際に体験してみないとわからない部分が多いため、インターンシップや農業体験を実施し、求職者に農業の魅力を直接感じてもらうことが有効です。
- 未経験者が農業の仕事を理解しやすくなる
- 企業と求職者のミスマッチを防ぎ、定着率を向上
- 地方移住希望者に実際の生活環境を体験してもらえる
例えば、週末農業体験を実施した農業法人では、実際に体験した参加者のうち、約30%が正式に応募するという結果が出ています。
農業インターンシップ(日本農業法人協会)
③ 採用条件を見直し、魅力を高める
農業法人が競争力を持つためには、給与・待遇を改善し、求職者が働きやすい環境を整えることが必要です。
■求職者が求める条件と対策
求職者のニーズ | 対応策 |
給与の安定 | 最低賃金以上の設定、昇給制度の導入 |
休日日数の確保 | 週休2日制の導入、繁忙期・閑散期の労働時間調整 |
キャリアアップ | 研修制度、独立支援、スマート農業技術の習得機会 |
住居支援 | 社宅の提供、移住補助制度 |
5 求職者の定着率を上げるためにできること

農業法人が採用を成功させても、定着率が低ければ労働力不足は解決しません。
特に、農業は未経験者が多く、過酷な労働環境のイメージがあるため、入社後に「思っていたのと違う」と感じて離職するケースも少なくありません。
人材の定着率を上げるには、働きやすい環境を整備し、長く働きたいと思える職場をつくることが重要です。本章では、農業法人ができる具体的な施策を解説します。
5.1 離職を防ぐための職場環境の改善
① 労働時間・休日の確保|ワークライフバランスの見直し
農業は天候に左右されるため、繁忙期・閑散期で労働時間が変動しやすく、「休みが少ない」「長時間労働が当たり前」というイメージが強いのが現状です。
しかし、週休2日制やシフト制の導入によって、無理のない働き方を提供している農業法人も増えています。
- 週休2日制の導入(閑散期は完全週休2日、繁忙期は交代制)
- シフト制を導入し、労働時間を均等に調整
- 繁忙期の労働負担を軽減するため、短期アルバイトを活用
② 給与・待遇の向上|長く働きたいと思える賃金体系を
農業法人の給与水準は、他の産業と比べて低い傾向があり、長期的に働く魅力を感じにくいことが課題です。
しかし、近年では昇給制度を明確にしたり、ボーナス制度を導入することで、給与面での魅力を向上させる農業法人も増えています。
- 最低賃金+αの給与設定(地域の相場を考慮)
- 昇給・賞与制度の整備(評価基準を明確にする)
- 残業代の適正支給、交通費補助、住宅手当の導入
雇用形態 | 平均月収(目安) | 備考 |
正社員(経験者) | 22万~30万円 | 役職やスキルにより変動 |
正社員(未経験) | 18万~25万円 | 研修期間はやや低め |
契約社員・パート | 時給1,000円~1,500円 | 短期・季節雇用が多い |
5.2 人材育成とキャリアアップの仕組みを作る
① 研修制度の充実|未経験者でも成長できる環境を
農業は未経験者の割合が高く、「仕事を覚えるのが大変」「研修が不十分で辞めてしまう」という課題があります。
そのため、研修制度を充実させ、段階的にスキルアップできる環境を整えることが、長期的な定着率向上につながります。
具体的な研修プログラム例
- 新人研修(作業の基礎・農機具の使い方)
- OJT研修(先輩社員がマンツーマンで指導)
- スマート農業研修(ドローン・自動化機械の操作習得)
② キャリアパスの整備|長期的に働ける仕組み
「農業は単純作業の繰り返し」というイメージが強いと、成長の実感が持てず、転職につながる可能性が高まります。
そのため、キャリアアップの道筋を明確にすることで、「この農業法人で長く働きたい」と思える環境を作ることが重要です。
キャリアパスの具体例
- 1年目:農作業の基礎を学ぶ(栽培・収穫・出荷)
- 2~3年目:農機具の操作、管理業務の一部を担当
- 4~5年目:リーダー職として新人指導、経営計画の参加
- 独立希望者向けの経営研修・支援制度
6 まとめ
農業の求人市場は変化しており、従来の「募集を出せば人が来る」時代は終わりました。人材を確保し、長期的に働いてもらうためには、求職者のニーズを理解し、それに応じた採用戦略と職場環境の整備が必要です。
本記事では、農業法人の求人市場の現状から、採用戦略、定着率を上げるための施策まで詳しく解説しました。最後に、採用成功のための重要なポイントを振り返ります。
6.1 農業法人の採用を成功させるためのポイント
- 農業従事者の減少と高齢化により、人材確保が急務
- 未経験者や異業種転職者が増加し、労働環境の改善が求められる
- 給与の安定化(最低賃金以上+昇給制度)
- 週休2日制やシフト制の導入による働きやすさの向上
- キャリアパスの整備とスキルアップ支援
- オンライン求人サイト・SNS・インターンシップを活用
- 農業体験イベントの実施で、求職者に職場の魅力を伝える
- 職場のコミュニケーションを活性化し、風通しの良い職場を作る
- スマート農業の導入で作業負担を軽減し、労働環境を改善する
- 社宅の提供や移住支援で、求職者の不安を解消する
6.2 今後の農業求人市場の展望
今後、農業の求人市場はさらに競争が激しくなることが予想されます。
「給料が良い」「休みが取れる」といった働きやすい職場でなければ、優秀な人材の確保は難しくなります。
しかし、求職者のニーズに応じた採用戦略と職場環境の改善を行えば、農業法人でも長期的に人材を確保できるはずです。
これからの農業経営には、「人材の確保と育成」が不可欠となります。本記事で紹介した施策を参考に、魅力ある職場づくりに取り組んでいきましょう!