1. はじめに

近年、地球温暖化の影響で台風の発生頻度や勢力が増し、農業への被害が深刻化しています。 強風や大雨による影響は、農作物の倒伏やハウスの破損、農機具の故障など多岐にわたり、事前の対策を怠ると、経済的な損失だけでなく、翌年以降の農業経営にも影響を及ぼすことがあります。
特に、台風による農業被害は年々拡大しており、2022年には日本各地で台風による農作物の被害額が100億円を超えるケースも報告されています。こうした状況を踏まえ、適切な台風対策を実施することが、被害を最小限に抑え、持続可能な農業を実現する鍵となります。
本記事では、農業従事者が台風に備えるための具体的な対策について、以下のポイントを中心に解説します。
- 台風の影響を最小限にするための事前準備
- 農作物・ハウス・農機具ごとの被害軽減策
- 台風通過後の適切な復旧方法と今後の対策
「台風は予測できる災害」であるため、事前の準備次第で被害を軽減することが可能です。 早めの対策を行い、農業経営の安定を守るための準備を進めていきましょう。
豪雨や台風等の風水害に備えるための予防減災情報(農林水産省)
2. 台風の影響を最小限にする事前準備
台風は事前に発生を予測できる災害であり、適切な対策を講じることで被害を最小限に抑えることが可能です。特に、農業では強風や大雨が作物や設備に大きな影響を及ぼすため、早めの準備が欠かせません。台風が接近する前に、農作物・ハウス・農機具の対策を適切に行い、被害を軽減することが農業経営の安定につながります。
本章では、台風シーズン前にできる準備と、台風接近時に実施すべき具体的な対策について解説します。
2-1. 台風シーズン前にできる対策
台風の影響を減らすためには、シーズン前から準備を整えておくことが重要です。台風が発生してからでは対応できないことも多いため、被害を抑えるための対策をあらかじめ実施しておくことが、農業経営を守るポイントとなります。
風速・降水量・高潮のリスクを確認する
過去の台風被害を参考にしながら、自分の農地がどのようなリスクを抱えているのかを把握することが重要です。特に、強風が吹きやすい地形か、低地で冠水のリスクがあるか、高潮の影響を受けやすいかといった点を確認しておくことで、対策を計画的に実施できます。
台風や大雨に関する最新の防災気象情報(気象庁)
防風林や防風ネットの整備
防風林を整備することで、強風による作物の倒伏やハウスの破損を軽減することができます。防風ネットを活用すれば、短期間での対策が可能になり、露地栽培やハウス栽培のどちらにも効果的な防御策となります。
排水路の点検と整備(冠水リスクの軽減)
台風による大雨は、農地の冠水を引き起こし、作物の根を傷める原因になります。排水路や排水ポンプが適切に機能するかを確認し、詰まりや損傷がないか定期的に点検しておくことが必要です。事前に排水能力を確保しておくことで、大雨による浸水被害を最小限に抑えることができます。
露地野菜における排水対策について(千葉県)
農業保険への加入(被害発生時の経済的負担を軽減)
台風による被害を完全に防ぐことは難しいため、農業保険に加入しておくことで、万が一の損害を補償する手段を確保できます。収入保険や農作物共済などの制度を活用することで、被害後の負担を軽減し、早期復旧を図ることが可能です。
農業保険に加入し、豪雨や台風襲来に備えましょう(農林水産省)
2-2. 台風接近前の具体的な準備
台風が接近した際には、短時間で実施できる対策が重要になります。農作物やハウス、農機具の保護を中心に、事前に準備を整えておくことで、被害の拡大を防ぐことができます。
農作物の管理(支柱補強・防風ネット設置)
露地栽培では、作物の支柱を補強し、倒伏しないようにすることが不可欠です。特に、トマトやキュウリなどのツル性作物は、強風に弱いため、支柱を斜めに補強することで風の影響を抑えることができます。また、防風ネットを設置することで、風速を軽減し、作物への直接的なダメージを減らすことができます。
ハウスの補強(ビニールの緩み確認・支柱の固定)
ビニールハウスは強風の影響を受けやすく、適切な補強を行わないと破損のリスクが高まります。事前にビニールの緩みを確認し、ロープで補強することで耐風性を高めることができます。また、ハウス内の換気口やドアを閉じ、風が内部に入り込まないようにすることが大切です。状況によっては、ビニールを事前に取り外すことで、ハウスの損傷を防ぐことも選択肢となります。
- 換気口やドアを閉じ、隙間をふさぐ
- ハウス全体をロープで補強し、風圧による破損を防ぐ
- 強風でビニールが破れるリスクが高い場合は、事前に取り外すことも検討する
台風・強風対策マニュアル(静岡県)
農機具・設備の保護(安全な場所に移動・防水対策)
農機具は強風や大雨の影響を受けやすいため、倉庫やガレージ内に移動させることが基本です。移動が困難な機械は固定し、飛散や転倒を防ぐ対策を行います。また、電気系統を含む機械には防水シートをかけ、浸水による故障を防止することが重要です。
- コンバイン・トラクターなどはガレージや屋内に収納する
- 軽量な農機具は固定し、強風で飛ばないようにする
- 燃料を補充し、万が一の停電時に備える
電源・燃料の確保(停電時の備え)
台風による停電は、農業用ポンプや冷蔵設備の停止につながるため、発電機を準備しておくことが有効です。燃料の補充も忘れず、必要な場合には予備のタンクを確保しておくことで、復旧作業を円滑に進めることができます。
- 必要な容量を確保し、事前に動作確認を行う
- 燃料タンクは満タンにし、予備の燃料も確保する
3. 農作物の台風対策|被害を軽減する方法

台風がもたらす強風や大雨は、農作物に深刻なダメージを与えることがあります。特に露地栽培では、作物の倒伏や冠水、塩害などの被害が発生しやすく、ハウス栽培ではビニールの損傷や骨組みの崩壊といったリスクが高まります。事前に適切な対策を講じることで、これらの被害を最小限に抑え、作物の生育を守ることが可能です。
本章では、露地栽培とハウス栽培における台風対策の具体的方法を解説します。
3-1. 露地栽培の台風対策
露地栽培は、直接風や雨の影響を受けるため、作物の倒伏や冠水、土壌流出などのリスクが高くなります。特にトマト、ナス、キュウリなどのツル性作物や、イネ・トウモロコシといった背の高い作物は、強風によって倒れやすいため、早めの対策が求められます。
作物を守るための基本対策
1. 支柱の強化と防風ネットの設置
2. 畝の高さを調整し、排水性を向上させる
3. 土寄せで根を保護する
- 支柱の強化と防風ネットの設置
トマトやナスなどの支柱を立てて栽培する作物は、支柱を追加したり、紐で複数の支柱をつなぐことで強度を高めることができます。さらに、防風ネットを設置することで、強風の直撃を和らげ、作物の倒伏リスクを軽減できます。 - 畝の高さを調整し、排水性を向上させる
台風による大雨は、根の酸欠や病害の原因となるため、水はけのよい環境を作ることが重要です。特に、畝を高くすることで、根の部分が浸水しにくくなり、作物の健康を維持しやすくなります。また、排水路を整備し、水の流れを確保することも忘れずに行いましょう。 - 土寄せで根を保護する
トウモロコシやイネなどの作物は、根が浅いため、強風で簡単に倒れてしまいます。台風が接近する前に、株元に土を寄せておくことで、根の固定力が高まり、倒伏を防ぐことができます。
3-2. ハウス栽培の台風対策
ビニールハウスは、台風による強風に最も弱い設備のひとつです。適切な補強を行うことで、被害を最小限に抑え、修復費用や復旧作業の負担を軽減することができます。
ハウスを守るためのポイント
1. ビニールの張りを調整し、たるみをなくす
2. 支柱の補強と追加固定
3. ビニールを外すべきかの判断基準
4. 換気口やドアの閉鎖・補強
- ビニールの張りを調整し、たるみをなくす
たるみのあるビニールは、強風によって破れやすくなるため、台風の前にしっかりと張り直し、固定することが重要です。また、ロープやワイヤーでビニールを補強し、風圧による破損を防ぐ対策を行いましょう。 - 支柱の補強と追加固定
骨組みの強度が不十分な場合、強風で支柱が変形したり、倒壊するリスクがあります。事前に補強材を追加し、ワイヤーやロープで固定することで耐風性を高めることが可能です。 - ビニールを外すべきかの判断基準
台風の風速が極端に強い場合は、あえてビニールを取り外すことで、骨組みが損傷するのを防げる場合があります。ただし、ビニールを外すとハウス内の作物が風雨にさらされるため、事前の天気予報を確認し、風速や台風の進路を考慮した上で判断することが必要です。 - 換気口やドアの閉鎖・補強
ハウス内に風が吹き込むと、内部からの圧力でビニールが破れるリスクが高まります。そのため、台風が接近する前に換気口やドアをしっかりと閉じ、補強することで被害を軽減できます。また、重しをつけることでハウスの安定性を向上させることも効果的です。
果樹の災害対策集(農研機構)
3-3. 塩害や土壌流出を防ぐための対策
海沿いの農地では、台風によって発生する塩害も大きな問題となります。塩分が作物の葉や土壌に付着すると、浸透圧の影響で生理障害を引き起こし、収穫に大きな影響を与えます。 塩害を防ぐためには、以下の対策が有効です。
葉面散布で作物を保護する
台風が接近する前に、カリウムやカルシウムを含む葉面散布剤を使用することで、塩害の影響を軽減できます。これにより、作物の耐塩性が向上し、塩害によるダメージを最小限に抑えることが可能です。
台風後に速やかに真水で洗浄する
もし塩害を受けた場合は、台風が通過した後すぐに作物の葉や土壌を真水で洗い流すことが大切です。特に、雨水を利用することで塩分を薄め、土壌に残る塩分の影響を最小限に抑えることができます。
4. 農機具・設備の台風対策

台風が接近すると、農作物だけでなく、農機具や設備にも大きな被害を及ぼす可能性があります。特に、強風による転倒・飛散、大雨による浸水や故障、停電による影響などは、台風後の農業復旧作業を遅らせる大きな要因になります。事前に適切な対策を行うことで、農機具や設備の損傷を防ぎ、スムーズな復旧を実現することが可能です。
本章では、農機具の保護方法、停電への備え、施設設備の台風対策について詳しく解説します。
4-1. 農機具の保護と収納
農機具は高価な機械が多く、一度故障すると修理費用や買い替えコストが大きくなります。そのため、台風の影響を受けにくい場所に収納し、飛散や水没を防ぐ対策を講じることが重要です。
農機具を守るための基本対策
1. 倉庫やガレージ内に収納する
2. 移動が困難な農機具はしっかり固定する
3. 防水シートで覆い、浸水対策を施す
- 倉庫やガレージ内に収納する
風雨の影響を受けないよう、トラクター、コンバイン、田植機、防除機などの主要な農機具は、倉庫やガレージに収納し、屋外に放置しないようにしましょう。 - 移動が困難な農機具はしっかり固定する
大型の農機具や移動が難しい機械は、タイヤ止めやロープで固定し、転倒・飛散を防ぐことが重要です。また、できる限り風下側に寄せ、風の直撃を避けるように配置するのも有効な対策です。 - 防水シートで覆い、浸水対策を施す
浸水が予想される地域では、農機具をできるだけ高い場所に移動させ、さらに防水シートをかけることで水の浸入を防ぐことができます。
4-2. 電源・燃料の確保(停電時の備え)
台風の影響で停電が発生すると、冷蔵施設や灌水システムが使用できなくなり、作物の管理や農業作業に支障をきたす可能性があります。特に、畜産農家では換気や給水システムが止まることで、家畜に深刻な影響が出るため、停電に備えた対策が不可欠です。
停電時に備えておくべき対策
1. 発電機の準備と動作確認
2. 燃料の確保(軽油・ガソリン・プロパン)
3. 冷蔵・換気設備の代替手段を確保
- 発電機の準備と動作確認
停電時に備えて、発電機を事前に用意し、燃料を補充しておくことが重要です。発電機が正常に動作するかを確認し、万が一の際にすぐに使用できるようにしておきましょう。 - 燃料の確保(軽油・ガソリン・プロパン)
停電が長引く場合に備えて、トラクターや発電機用の燃料(軽油・ガソリン・プロパン)を十分に確保しておく必要があります。ただし、燃料は適切に保管し、火災リスクを避けるための安全管理も徹底しましょう。 - 冷蔵・換気設備の代替手段を確保
野菜や果物を保管する冷蔵施設が停電した場合、長時間放置すると品質が劣化してしまいます。そのため、非常用の電源や保冷材を用意し、一時的に作物を保護する手段を確保することが重要です。
農業用ハウスの非常用電源の導入支援(日本農業法人協会)

4-3. 施設・設備の台風対策
農業施設や設備は、台風の強風による破損や飛散、大雨による浸水の影響を受ける可能性が高い部分です。事前に適切な補強や排水対策を行うことで、施設の損傷を防ぎ、早期復旧をスムーズに進めることができます。
施設設備の保護方法
1. ビニールハウスの補強
2. 畜舎や倉庫の強度確認と補強
3. 排水設備の確認と整備
- ビニールハウスの補強
ハウスは強風の影響を受けやすいため、補強ワイヤーを追加し、ビニールのたるみをなくすことで耐風性を向上させることが重要です。また、風の強さによっては事前にビニールを外し、骨組みのみを残すことで破損リスクを低減することも検討しましょう。 - 畜舎や倉庫の強度確認と補強
台風の強風で屋根が飛ばされたり、壁が破損することを防ぐために、接合部や支柱の強度を事前に確認し、必要に応じて補強を行うことが必要です。特に、扉や窓が強風で開かないよう、ロックを強化しておくことが大切です。 - 排水設備の確認と整備
大雨による浸水を防ぐために、排水溝や排水ポンプが正常に機能するかを事前に点検し、水の流れを確保しておくことが重要です。冠水しやすい場所には土のうを設置し、水の侵入を抑える対策を行いましょう。
5. 台風通過後の復旧対策
台風が通過した後は、速やかに復旧作業を開始し、被害を最小限に抑えることが重要です。農作物・農機具・施設設備の点検を行い、適切な対処をすることで、農業経営への影響を抑え、次の栽培につなげることができます。 早期復旧のためには、被害の記録・適切な処置・農業保険の申請をスムーズに進めることが鍵となります。
本章では、台風後に行うべき点検項目と復旧の流れについて詳しく解説します。
5-1. 速やかに行うべき点検と対応
台風が通過した直後は、農作物や施設の被害状況を確認し、応急処置を行うことが最優先です。台風後の復旧作業を円滑に進めるために、以下の点を順番に確認しましょう。
農作物の被害確認と対処
台風の強風や大雨により、作物が倒れたり、葉が傷んだりしている可能性があります。被害の状況を的確に把握し、復旧可能なものとそうでないものを判断することが重要です。
被害の主な種類と対策
被害の種類 | 影響 | 復旧方法 |
倒伏(作物が倒れる) | 根が浮き、光合成が阻害される | 可能な限り支柱で補強し、土寄せを行う |
冠水(畑の水没) | 根が酸欠になり、病害リスク増大 | 速やかに排水を行い、土壌改良を実施 |
葉の損傷・折れ | 蒸散ができず、枯れやすくなる | 剪定し、病害の発生を防ぐ |
塩害(海沿い地域) | 葉や土壌に塩分が残り、枯れる | 速やかに真水で洗い流し、降雨を利用して土壌を改良 |
ハウスの損傷チェックと応急処置
ビニールハウスは、台風後に破損している可能性があるため、損傷箇所を確認し、早急に修理することが大切です。破れたビニールは補修テープで応急処置を施し、支柱が曲がっている場合は補強を行い、次の強風に備えましょう。
チェックすべきポイント
- ビニールの破損・飛散はないか?
- 支柱や骨組みが歪んでいないか?
- ドアや換気口は機能しているか?
排水と土壌の回復
台風後の畑は、水が溜まりやすく、土壌の栄養バランスが崩れていることが多いため、速やかに排水を行い、必要に応じて土壌改良を実施します。
土壌回復のための対策
- 排水路の確認と修復を行い、水はけを改善する
- 冠水した畑には、有機物や堆肥を施用し、土壌の通気性を回復させる
- 塩害を受けた場合は、雨水を活用して塩分を洗い流し、必要に応じてpH調整を行う
5-2. 被害を最小限にする復旧計画
台風後の復旧作業は、長期的な農業経営にも影響を与えるため、できるだけ早く適切な処置を行い、再発防止策を考慮しながら進めることが重要です。
農作物の回復措置
倒れた作物は、できる限り支柱を立て直し、株元に土寄せを行うことで回復を促すことができます。また、冠水被害を受けた場合は、根のダメージが大きいため、速やかに土壌改良を施し、成長をサポートする必要があります。
農機具・設備の点検と修理
農機具は、水没や強風で損傷している可能性があるため、エンジンや電気系統の異常がないかをチェックし、必要に応じて専門業者に修理を依頼しましょう。
✔ 重要な点検項目
- 燃料・エンジンの水没確認
- 電気系統のショートや断線チェック
- 発電機の動作確認(停電時の使用)
5-3. 被害状況の記録と保険申請
台風による農業被害を最小限にするためには、被害の記録を残し、農業保険の申請を迅速に行うことが重要です。
- 作物・施設・農機具の損傷箇所を写真に撮る
- 被害の程度(倒伏率、冠水面積、破損状況など)を記録する
- 保険申請時に必要な書類を揃える(農協・市町村の指示に従う)
- 農作物共済:作物の損害を補償
- 収入保険:収入減少分を補償
- 農業施設共済:ハウスや倉庫の被害を補償
6. まとめ|適切な台風対策で農業被害を最小限に

台風は農業に深刻な影響を与えますが、事前の備えと迅速な復旧対応を行うことで、被害を最小限に抑えることができます。 本記事では、台風前の準備、農作物・施設・農機具の対策、台風後の復旧方法を解説しました。
特に重要なのは、防風・排水対策の強化、農機具やハウスの補強、作物の耐風性向上、そして迅速な復旧作業です。加えて、農業保険の活用や、地域ごとのリスク分析を行い、毎年の対策を改善していくことが、持続可能な農業経営につながります。
台風は毎年発生する災害だからこそ、備えを万全にし、被害を最小限に抑えられる体制を整えましょう。