1. はじめに

1-1. イノシシ被害が増えている背景
イノシシの生息域拡大と農作物被害の深刻化
近年、日本各地でイノシシによる農作物被害が深刻化しています。
山間部だけでなく、市街地近くの畑でも被害が報告されるケースが増えており、新規就農者からベテラン農家まで幅広く対策が求められています。
特に以下のような要因が、イノシシの増加を後押ししています。
- 里山の環境変化:人が手を加えなくなった里山が増え、イノシシの生息環境が広がった
- 天敵の減少:オオカミの絶滅やクマの減少により、イノシシの個体数が増加
- 温暖化の影響:冬季の気温が上昇し、エサの確保が容易になった
以下の表は、近年のイノシシによる農作物被害額の推移を示したものです。
年度 | 被害額(億円) | 被害面積(ha) |
---|---|---|
2015 | 60.1 | 15,000 |
2018 | 72.5 | 17,800 |
2021 | 80.3 | 19,200 |
(※農林水産省のデータを基に作成)
このように、被害額が年々増加しており、効果的なイノシシ対策の実施が急務となっています。
1-2. イノシシが畑にもたらす具体的な被害
食害による収穫量の大幅減少
イノシシはサツマイモ、ジャガイモ、トウモロコシ、稲などの作物を好んで食べるため、被害を受けると収穫量が大幅に減少します。
特に、収穫直前の作物が狙われるケースが多く、一年間の努力が一晩で台無しになることも珍しくありません。
畑の掘り返しによる土壌破壊
イノシシは嗅覚が鋭く、土の中の虫や根菜類を探して地面を掘り返します。
これにより、作物の根が露出してしまったり、畑の整地作業を一からやり直さなければならなくなるなど、被害は収穫物だけに留まりません。
農業設備の破壊(柵・ハウスの損壊)
体重100kgを超えるイノシシが体当たりすると、簡易的な柵やビニールハウスは簡単に破壊されてしまいます。
また、一度侵入した場所を覚えて何度も訪れるため、対策が不十分だと被害が継続してしまいます。
1-3. 早めの対策がカギ!イノシシ被害を防ぐために
- イノシシの被害は「出てから」ではなく、「出る前」の対策が重要
- 一度被害を受けると、同じ場所が狙われやすくなるため、早めの対策が効果的
- 地域ぐるみでの取り組みが成功のカギ(個人での対策には限界がある)
これらを踏まえ、次章ではまずイノシシの被害の特徴と生態について詳しく解説します。
被害を最小限に抑えるために、イノシシの習性を理解することが第一歩です!
2. イノシシの被害と生態

イノシシは、日本全国で農作物に甚大な被害をもたらす害獣の一つです。特に、畑の作物を食い荒らすだけでなく、地面を掘り返して土壌を破壊し、農業の生産性を大きく低下させます。
本章では、イノシシがもたらす被害の特徴と、その生態や習性について詳しく解説します。イノシシの行動パターンを理解することが、効果的な対策の第一歩です。
2-1. イノシシによる農作物被害の特徴
農作物の食害による収穫量の減少
イノシシは雑食性であり、特に以下の作物を好んで食べることが知られています。
作物の種類 | 被害の程度(高・中・低) | 被害の特徴 |
---|---|---|
サツマイモ | 高 | 畑を掘り返しながら食べる |
ジャガイモ | 高 | 根菜類を丸ごと食べる |
トウモロコシ | 高 | 実をかじる、倒して食べる |
稲 | 中 | 田んぼに侵入し、稲を食いちぎる |
ブドウ | 中 | 実を食べる(収穫直前が特に危険) |
特に、収穫間近の作物が狙われやすいため、農家にとって大きなダメージとなります。
地面の掘り返しによる土壌の破壊
イノシシは、食料を探すために地面を掘り返す習性があります。これは「ヌタ場行動」と呼ばれ、以下のような影響を及ぼします。
- 作物の根が露出し、生育に悪影響を与える
- 土壌の水はけが悪くなり、畑の環境が悪化する
- 農地の整備が必要となり、追加の労力とコストが発生する
畑の設備・農業機械の破損
体重100kgを超えるイノシシが、畑の柵やビニールハウスに体当たりすることで、農業設備が破壊されるケースもあります。
また、農業用のホースや電気柵のワイヤーをかじられることもあり、対策をしないと畑全体が荒廃するリスクがあります。
2-2. イノシシの生態と習性
イノシシの行動パターンと活動時間
イノシシは主に夜行性であり、夕方から夜間にかけて活動が活発になります。
日中は茂みや山の中で休み、日没後にエサを探しに畑へやってきます。
📌イノシシの1日の行動パターン
時間帯 | 行動 |
---|---|
日中(9:00~17:00) | 山中で休息 |
夕方(17:00~19:00) | 活動開始、餌場へ移動 |
夜間(19:00~2:00) | 農地へ侵入、作物を食害 |
早朝(2:00~6:00) | 山へ帰る |
このため、イノシシ対策としては、夜間に効果を発揮する防護策(電気柵や光・音の対策)を重点的に強化することが重要です。
嗅覚が鋭く、遠くのエサも察知する
イノシシは犬の7倍以上の嗅覚を持つと言われ、遠くのエサの匂いを察知する能力に優れています。
特に、畑で熟した作物の匂いを感知すると、何十キロも離れた場所から移動してくることがあります。
イノシシを寄せ付けないためのポイント
- 収穫が終わった畑の作物残渣は速やかに片付ける
- 畑周辺に魚粉や米ぬかなどの強い匂いのする肥料を撒かない
- 道端に落ちた果実や野菜を放置しない
学習能力が高く、一度成功した行動を繰り返す
イノシシは非常に賢く、一度侵入できた場所は何度でも狙う傾向があります。
特に、柵を突破した経験を持つ個体は、同じ方法で何度も侵入するため、一度被害を受けた畑ではより強固な対策が必要になります。
学習行動を防ぐための対策
- 電気柵の電圧は4000V以上を維持し、低電圧で慣れさせない
- 柵の設置方法を定期的に変える(同じ形状では突破されやすい)
- イノシシが来る時間帯を特定し、威嚇対策を変える(光や音の演出を変更)
繁殖力が高く、個体数が急増する
イノシシの繁殖力は非常に高く、1年に2回出産する個体もいます。
1回の出産で平均4~6頭の子を産むため、放置すると個体数が急増し、被害が拡大します。
📌イノシシの繁殖サイクル
繁殖シーズン | 出産時期 | 生後の特徴 |
---|---|---|
11月~1月 | 3月~5月 | 1年で成獣になり、翌年には繁殖可能 |
6月~8月 | 9月~11月 | 食欲旺盛で畑を荒らしやすい |
このように、繁殖期のピークに合わせて、イノシシの動きが活発になる時期(春~秋)は特に警戒が必要です。
3. イノシシ対策の基本

イノシシ対策には、「侵入を防ぐ」「近寄らせない」「捕獲する」の3つのアプローチがあります。
イノシシは学習能力が高いため、単独の対策では効果が薄く、複数の手法を組み合わせることが重要です。
ここでは、実践しやすく効果的な対策方法を詳しく解説します。
3-1. 物理的防御(防護柵・電気柵)
防護柵の設置|頑丈な柵でイノシシの侵入を防ぐ
イノシシの侵入を防ぐ最も確実な方法は、物理的に畑を囲むことです。
一般的に、金属製の柵やワイヤーメッシュフェンスが有効とされています。
📌 防護柵の設置ポイント
柵の種類 | 特徴 | 効果 |
---|---|---|
金属メッシュ柵 | 強度が高く、体当たりに耐える | 高 |
ワイヤーメッシュ柵 | 比較的軽量で設置しやすい | 中 |
プラスチック柵 | コストが安いが耐久性が低い | 低 |
設置のポイント
- 高さ90cm以上の柵が必要(イノシシは飛び越えないが、体当たりする)
- 地面に30cm以上埋め込む(掘り返して侵入するのを防ぐ)
- L字型に地中へ埋め込むことで、さらに突破しにくくなる
電気柵の活用|イノシシを寄せ付けない最強の防御策
電気柵は、イノシシが触れると電流が流れ、撃退する仕組みです。
正しく設置すれば、高い効果を発揮し、イノシシが近寄らなくなります。
📌 電気柵の設置ポイント
設置のポイント | 理由 |
---|---|
電圧4000V以上を確保 | 低すぎると効果がない |
地面に近い高さで設置(20cm・40cm・60cm) | 小さなイノシシも防ぐため |
定期的に草刈りをする | 雑草が触れると電流が減少する |
- 必ず警告看板を設置する(法律で義務付けられている)
- バッテリーの充電を定期的にチェック
3-2. 忌避対策(匂い・音・光での撃退)
匂いによる忌避対策|イノシシが嫌う臭いを活用
イノシシは嗅覚が非常に鋭いため、強い匂いで寄せ付けない対策が有効です。
📌 有効な忌避剤と使い方
忌避剤の種類 | 特徴 | 使用方法 |
---|---|---|
木酢液 | 燻製のような匂いで嫌がる | 畑の周囲に散布 |
唐辛子スプレー | 刺激臭が強く、嗅覚を刺激する | 柵や作物の周囲に噴霧 |
獣臭スプレー | イノシシの天敵(狼や虎)の匂い | 畑の周辺に設置 |
- 雨で流れやすいので、定期的に再散布することが必要
- 効果が薄れるため、異なる種類の忌避剤を交互に使う
音と光を利用した対策
イノシシは警戒心が強いため、大きな音や光で驚かせる方法も有効です。
📌 音・光を使ったイノシシ対策
対策方法 | 効果 | 設置場所 |
---|---|---|
超音波発生装置 | イノシシの嫌がる高周波音を発生 | 畑の周囲 |
爆音機 | 銃声のような音で撃退 | 農地の入り口 |
ソーラー式LEDライト | 光で警戒心を与える | 畑の周囲 |
- イノシシは学習能力が高く、慣れてしまうことがある
- 数週間ごとに配置を変えると効果が持続しやすい
3-3. 捕獲対策(罠・猟友会との連携)
罠を使った捕獲対策
イノシシが頻繁に出没する場合は、捕獲罠を活用するのも効果的な手段です。
📌 代表的な罠の種類
罠の種類 | 特徴 | 設置の難易度 |
---|---|---|
箱罠 | イノシシを閉じ込めるタイプ | 中 |
くくり罠 | 足を絡めて捕獲する | 高 |
- 罠の設置には自治体の許可が必要
- 狩猟免許が必要な場合があるため、事前に確認
- 地域の猟友会と連携するとより効果的
4. イノシシ対策の注意点とコスト
イノシシ対策を効果的に実施するためには、法規制を遵守し、コストと効果を考慮しながら計画的に対策を進めることが重要です。
この章では、イノシシ対策を実施する際の注意点、補助金の活用、コストの比較について詳しく解説します。
4-1. イノシシ対策に関する法規制と注意点
狩猟や罠の設置には許可が必要
イノシシ対策として罠を設置する場合、法律や自治体のルールを守る必要があります。
無許可での捕獲は法律違反となるため、必ず事前に手続きを行いましょう。
📌 罠の設置に関する法律と注意点
対策方法 | 許可の有無 | 詳細 |
---|---|---|
電気柵の設置 | 許可不要 | ただし警告看板を設置する必要あり |
箱罠の設置 | 自治体の許可が必要 | 設置場所や方法に制限あり |
くくり罠の設置 | 狩猟免許が必要 | 「わな猟免許」を取得する必要がある |
銃猟による駆除 | 狩猟免許および自治体の許可が必要 | 一般農家では実施が難しい |
電気柵の設置は安全管理を徹底する
電気柵は効果的なイノシシ対策ですが、誤った設置方法や管理不足が原因で感電事故が発生するケースもあります。
- 電圧4000V以上を確保する(効果がない低電圧のものは無意味)
- 警告看板を必ず設置する(法律で義務化されている)
- バッテリーの管理を徹底し、電力が落ちないようにする
4-2. イノシシ対策に活用できる補助金・助成金
農林水産省の補助金制度を活用する
日本政府や地方自治体では、イノシシ対策のための補助金を提供しています。
電気柵や防護柵の設置にかかるコストを抑えるため、補助金制度を活用しましょう。
📌 イノシシ対策に使える補助金一覧
補助金名 | 対象となる対策 | 補助率 |
---|---|---|
鳥獣被害防止総合対策交付金 | 防護柵・電気柵・捕獲罠 | 最大50%補助 |
地方自治体の補助金 | 地域ごとの害獣対策 | 自治体により異なる |
農業共済制度 | 被害に遭った作物の補償 | 一定割合を補償 |
4-3. イノシシ対策のコストと費用対効果
対策ごとのコスト比較
イノシシ対策は長期的な投資になりますが、初期費用と維持費のバランスを考慮して選ぶことが重要です。
📌 イノシシ対策ごとのコスト比較表
対策方法 | 初期費用(円) | 維持費(円/年) | 効果 |
---|---|---|---|
電気柵(3段張り) | 約50,000~100,000 | 5,000~10,000 | 高 |
防護柵(ワイヤーメッシュ) | 約100,000~200,000 | 10,000~20,000 | 高 |
忌避剤(木酢液・唐辛子スプレー) | 約3,000~10,000 | 5,000~15,000 | 中 |
超音波装置・爆音機 | 約30,000~80,000 | 3,000~5,000 | 低~中 |
箱罠・くくり罠 | 約50,000~150,000 | 10,000~30,000 | 高 |
・電気柵と防護柵は初期費用が高いが、長期的な効果が見込めるためコストパフォーマンスが良い。
・忌避剤や超音波装置は安価だが、イノシシが慣れる可能性があるため定期的な変更が必要。
コストを抑えるための工夫
- 地域の猟友会や自治体と協力し、共同で対策を行う
- 電気柵や防護柵はグループ購入し、コストを分担する
- 補助金を活用して、初期費用を抑える
5. まとめ|イノシシ対策は早めの実施が鍵

イノシシによる畑の被害を防ぐには、早めの対策と複数の方法を組み合わせることが重要です。物理的防御としては、防護柵や電気柵の設置が最も効果的で、イノシシの侵入を確実に防ぐことができます。さらに、木酢液や唐辛子スプレーといった忌避剤、超音波装置や爆音機などの対策を併用することで、イノシシが畑に近づきにくい環境を作ることができます。
また、イノシシの被害が深刻な地域では、箱罠やくくり罠を活用した捕獲対策も有効です。ただし、罠の設置には自治体の許可が必要であり、法律を遵守した適切な手続きを踏むことが大切です。さらに、コストを抑えながら効果的な対策を行うためには、自治体の補助金制度を活用するのも有効な手段となります。
イノシシは学習能力が高く、一度侵入できた畑を何度も狙う習性があります。そのため、一度被害を受けた後に対策を強化するのではなく、「被害が発生する前にしっかりと対策を講じること」が最も重要です。地域ぐるみでの対策を進め、持続的に実施することで、長期的に安定した農業経営を実現することができます。本記事を参考に、自分の畑に適した方法を取り入れ、大切な作物を守るための対策を今すぐ始めましょう。