1. はじめに：農業経営基盤強化促進法とは？
農業経営を安定させるためには、農地の適切な管理と有効活用が不可欠です。しかし、日本の農業は高齢化や後継者不足により、耕作放棄地の増加や農地の分散化といった課題を抱えています。
こうした状況を改善し、農地の集約化や効率的な利用を促進するために制定されたのが「農業経営基盤強化促進法」です。本法律は、農業者が安定した経営基盤を確立できるよう、農地の貸借や事業承継の仕組みを整備し、持続可能な農業を支援しています。
本記事では、この法律の概要や2024年の改正ポイントを中心に、農業経営への影響について詳しく解説します。
1-1. 農業経営基盤強化促進法とは？
農業経営基盤強化促進法の目的
農業経営基盤強化促進法は、農業経営の持続可能性を高めるために制定された法律で、主に以下の目的を持っています。
- 農地の有効活用と集約化
- 農地の小規模分散を防ぎ、効率的な農業経営を促進
- 耕作放棄地の削減を目指し、農地の適正管理を強化
- 農業者の経営安定・成長支援
- 事業承継を円滑に進めるための農地貸借制度の整備
- 新規就農者がスムーズに農地を確保できる仕組みを提供
- 地域の農業振興と持続可能な農業推進
- 地域ごとの農地利用計画の策定を推奨
- 環境負荷を抑えた農業の促進
1-2. なぜ農業経営基盤強化促進法が重要なのか？
農業の未来を考える上で、この法律が果たす役割は非常に大きいものです。
農業を取り巻く課題
| 課題 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 高齢化・後継者不足 | 農地の維持が困難になり、休耕地が増加 |
| 農地の分散 | 小規模な農地が点在し、生産効率が低下 |
| 農地貸借の不透明性 | 相対契約による個別貸借が進み、農地の適切な集約が難しい |
これらの問題を解決するために、農業経営基盤強化促進法が改正され、農地の集約と貸借制度の透明化が推進されています。
1-3. 過去の改正と農業経営への影響
農業経営基盤強化促進法は、時代の変化に応じて改正が行われています。
主な改正の経緯
| 改正年度 | 改正内容 | 農業経営への影響 |
|---|---|---|
| 1993年 | 農地の貸借制度を整備 | 農地の流動性が向上 |
| 2009年 | 農業法人化の促進 | 企業の農業参入が増加 |
| 2021年 | 農地の集約・事業承継の支援強化 | 農業経営の安定化が加速 |
| 2024年 | 農地貸借のルール変更 | 地域計画に基づく貸借契約への一本化 |
2. 農業経営基盤強化促進法の改正ポイント
2024年の農業経営基盤強化促進法の改正では、農地の貸借制度が大きく変更されました。これまで農業者同士の相対契約（直接契約）で農地を貸借することが可能でしたが、今後は地域計画に基づいた仕組みに移行し、中間管理機構を通じた農地貸借に一本化されます。
これにより、農地の集約化が進み、適切な経営体が農地を利用できる仕組みが整備されることが期待されています。
2-1. 改正の背景と目的
なぜ農地貸借制度が変更されたのか？
近年、日本の農業は以下のような課題を抱えています。
| 課題 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 相対契約による貸借の課題 | 小規模な貸借契約が乱立し、農地の集約が進まない |
| 農地の適正管理が難しい | 耕作放棄地の増加や非効率な利用が発生 |
| 地域ごとの計画性の欠如 | それぞれの農業者の判断に委ねられ、計画的な農地利用が困難 |
このような状況を改善し、農地の有効活用を促進するために、2024年の改正では、農地貸借の透明性を高め、計画的な農地利用を推進する ことが目的とされています。
2-2. 改正の具体的なポイント
① 地域計画が策定された地区では、相対契約が禁止
これまで農業者同士の相対契約で農地貸借が可能でしたが、地域計画が策定された地区では相対契約ができなくなります。
新たなルール:
- 農地の貸借は、「農用地利用集積等促進計画」 に基づく仕組みを通じて行う。
- 目標地図に位置付けられた農業経営体のみ が農地の貸借を行える。
・計画的な農地利用が推進され、農地の適正な管理が進む。
・新規就農者や事業承継者にとって、農地取得の機会が明確になる。
② 2026年以降は、すべての貸借契約が中間管理機構を通じて一本化
地域計画が未策定の地区では、2024年時点では引き続き相対契約が可能ですが、2026年（令和8年）以降はすべての貸借契約が中間管理機構を通じて行う仕組みに一本化されます。
変更点:
- 2024年〜2025年 → 地域計画が策定されていない地区では相対契約が可能。
- 2026年以降 → 全国的に中間管理機構を通じた農地貸借に統一。
・農地貸借の透明性が向上し、適切な経営体に農地が貸し出される。
・貸借契約の手続きが一本化されることで、行政の管理がしやすくなる。
・特定の農業法人や事業承継者が農地を取得しやすくなる。
③ 中間管理機構による農地貸借の役割強化
今回の改正では、中間管理機構（農地バンク） の役割がさらに強化されます。
| 変更前 | 変更後（2024年改正） |
|---|---|
| 相対契約（農業者同士の直接貸借）が一般的 | 中間管理機構がすべての貸借契約を管理 |
| 貸し手と借り手の間で条件交渉 | 地域計画に基づいた貸借が推進される |
| 契約が短期的なものが多い | 長期的な貸借契約が可能に |
・農地貸借の安定性が向上し、農業者が長期的な経営計画を立てやすくなる。
・中間管理機構が地域の農地貸借を統括することで、計画的な農地利用が進む。
2-3. 改正によるメリットと注意点
改正によるメリット
| 対象者 | メリット |
|---|---|
| 新規就農者 | 農地貸借の透明性が向上し、安定した契約が可能になる |
| 既存農業者 | 農地の集約化が進み、大規模経営がしやすくなる |
| 農業法人 | 計画的な農地確保が可能になり、事業の長期化が図れる |
| 行政・自治体 | 耕作放棄地の削減や、適正な農地利用が可能になる |
改正による注意点
- 既存の相対契約ができなくなるため、事前の準備が必要
- 地域計画に基づいた貸借のみになるため、条件を満たさない場合は農地を借りられなくなる
- 2026年以降は、すべての貸借契約が中間管理機構を通じたものになるため、手続きの流れを把握しておく必要がある
2024年の農業経営基盤強化促進法の改正では、農地貸借の仕組みが大きく変わり、2026年以降はすべての貸借契約が中間管理機構を通じたものに統一されます。
- 地域計画が策定された地区では、相対契約による農地貸借が不可に
- 2026年以降は、全国的に中間管理機構を通じた契約に一本化
- 農業法人や特定の農業経営体にとって、計画的な農地確保が容易になる
今後、農業経営を継続・発展させるためには、改正内容を正しく理解し、自身の農地契約を見直すことが重要です。
次の章では、改正による農業経営への具体的な影響について詳しく解説します。自身の経営にどのように活かせるのか、チェックしてみてください。
3. 改正による農業経営への影響
2024年の農業経営基盤強化促進法の改正により、農地貸借のルールが大きく変わりました。特に、相対契約（農業者同士の直接貸借）の廃止と中間管理機構を通じた契約の一本化は、農業経営に大きな影響を与える可能性があります。
この改正によって、新規就農者や既存農家、農業法人がどのような影響を受けるのかを詳しく解説します。
3-1. 新規就農者への影響
新規就農者にとって、農地の確保は大きな課題の一つです。今回の改正により、農地貸借のルールが明確化され、中間管理機構を通じた契約が基本となるため、適正な手続きを踏めば農地を確保しやすくなるメリットがあります。
期待されるメリット
①農地貸借の透明性向上
これまでの相対契約では、農地所有者の意向によって契約の不透明性がありましたが、中間管理機構を通じた契約に一本化されることで、より公平で明確なルールのもとで貸借が可能になります。
②長期的な農地利用が可能に
- 新規就農者にとって、短期間の貸借契約では経営計画を立てにくい問題がありました。今回の改正で、中間管理機構を通じた契約が基本となることで、長期的な農地利用がしやすくなり、安定した経営が可能になります。
③農地の集約が進み、経営しやすい環境に
- 地域ごとの農地利用計画に基づき、農地が計画的に貸し出されるため、適切な規模の農地を確保しやすくなることが期待されます。
【注意点】
⚠ 中間管理機構を通さなければならないため、スムーズな契約に時間がかかる可能性がある。
⚠ 特定の農業経営体のみが貸借可能になるため、農業を始める地域選びがより重要に。
3-2. 既存農家への影響
既存の農業者にとって、農地の拡大や事業承継は経営の安定・成長に直結します。今回の改正は、特に農地を拡大したい農業者や事業承継を考えている農家にとって、大きな影響を与えます。
期待されるメリット
①農地集約が進み、大規模経営がしやすくなる
- これまで個別の契約によって細かく分散されていた農地が、中間管理機構を通じて一元管理されることで、まとまった農地を借りやすくなる。
②事業承継がスムーズになる
- 農業後継者がいる場合、計画的に農地を貸し出し、引き継ぐことができる仕組みが強化されるため、事業承継がスムーズになる。
③貸し手側のリスクが減少
- 従来の相対契約では、借り手が不在になった場合、農地の維持管理にコストがかかるリスクがありました。中間管理機構が関与することで、契約終了後も農地の適正管理が保証されるため、貸し手側の負担が軽減される。
【注意点】
⚠ 相対契約ができなくなるため、これまで自由に貸借していた農地の契約を見直す必要がある。
⚠ 2026年以降はすべての契約が中間管理機構を通じたものになるため、手続きの流れを事前に把握しておくことが重要。
3-3. 農業法人・企業の影響
近年、農業法人や企業が農業分野に参入するケースが増えています。今回の改正では、法人経営者にとって計画的な農地確保がしやすくなる一方、農地の利用条件がより厳格化される可能性もあります。
期待されるメリット
①計画的な農地確保が可能に
- 中間管理機構が農地の貸借を統括することで、事業計画に基づいた農地確保がしやすくなる。
②農地利用の長期安定化
- 長期間にわたり農地を確保できるため、農業法人としての事業展開がしやすくなる。
【注意点】
⚠ 地域計画に基づく農地貸借となるため、新たなエリアでの事業展開が制限される可能性がある。
⚠ 中間管理機構の審査をクリアしなければ農地を確保できないため、事前に経営計画をしっかり立てる必要がある。
4. まとめ：改正を理解し、農業経営に活かそう
2024年の農業経営基盤強化促進法の改正では、農地貸借のルールが大きく変更されました。これまで農業者同士で行っていた相対契約が廃止され、地域計画に基づいた貸借制度へ移行することで、農地の適正な管理と計画的な利用が推進されます。
4-1. 改正の重要ポイント
- 地域計画が策定された地区では、相対契約による農地貸借ができなくなる。
- 2026年以降、全国的に中間管理機構を通じた貸借契約に一本化される。
- 農地貸借の透明性が向上し、長期的な利用がしやすくなる。
- 農業法人や事業承継者にとって、計画的な農地確保が可能に。
改正により農地貸借の安定性が高まり、農業経営の持続可能性が強化されます。一方で、相対契約ができなくなるため、これまでの契約方法を見直す必要があります。
4-2. 農業者が今後取るべきアクション
1. 自身の農地貸借状況を確認する
- 既存の相対契約が2026年以降どうなるのかを確認。
- 中間管理機構を通じた契約に移行する準備を進める。
2. 地域の農業振興計画を把握する
- 地域計画が策定されているか、どの農業経営体が対象になるかを確認。
- 自身が目標地図に位置付けられるか、行政窓口に相談する。
3. 農地利用計画を見直す
- 長期的に農地を確保し、安定した経営を目指す。
- 必要に応じて中間管理機構を活用し、スムーズに農地を取得・貸借できる体制を整える。
4-3. まとめ：改正をチャンスに変え、安定した農業経営を目指そう
2024年の改正は、農地の計画的な利用と管理の適正化を促進するものです。特に、長期的な農地貸借がしやすくなる一方で、相対契約が廃止されることで、既存の契約方法を見直す必要がある点が重要です。
改正の内容をしっかり理解し、地域の農地利用計画を把握したうえで、スムーズに新しい制度へ対応できるよう準備を進めていきましょう。
今後の農業経営に役立てるために、地域の農業支援機関や中間管理機構へ相談し、計画的な農地利用を進めることが成功の鍵となります。
