1. はじめに:毎年悩まされる「ウリハムシ」…農薬だけでは防げない?

キュウリ、カボチャ、スイカ、ズッキーニなど、ウリ科作物を栽培している方にとって「ウリハムシ」は厄介な害虫の代表格です。特に春の定植直後や活着直後の苗に集中して飛来し、葉をレース状に食害することで、成育を大きく阻害します。
さらにやっかいなのは、ウリハムシがモザイク病などのウイルスを媒介する可能性があること。防除が遅れると、作物へのダメージが長期にわたって残るケースも珍しくありません。
「農薬を使っているのに、なぜか止まらない」「すぐ戻ってくる」「結局毎年同じ被害が出る」――こうした声が現場では多く聞かれます。実は、ウリハムシは飛来性が非常に強く、農薬だけでは完全に抑えるのが難しい害虫です。
だからこそ、農薬の正しい使い方に加えて、物理的な防除や環境づくりを組み合わせる“あわせ技”が重要になります。この記事では、ウリハムシの発生タイミングや特徴を押さえたうえで、現場で効果のある農薬、防除のコツ、そして農薬だけに頼らない多角的な対策方法を詳しく解説していきます。
2. ウリハムシの発生時期と被害の特徴を押さえよう
ウリハムシは、ウリ科作物を専門に加害する害虫であり、その被害は見た目以上に深刻で、生育初期の苗を一気にダメにしてしまうこともある厄介な存在です。とくに小規模〜中規模の露地栽培やハウス栽培においては、防除の遅れが作型全体の収量や品質に直結するため、防除のタイミングを見極めるにはまず発生の特徴をしっかり押さえておく必要があります。
2-1. 発生時期:春先から一気に飛来。油断は禁物
ウリハムシの成虫は、春の気温上昇とともに動き出します。地域差はありますが、4月中旬〜6月にかけてが主な発生時期で、気温が20℃を超えると一気に活発になります。
越冬した成虫は、畦や林縁、圃場周辺の雑草地や落ち葉の下などから姿を現し、ウリ科作物の新芽や若葉を求めて飛来してきます。とくに定植後まもない時期は、苗の抵抗力も弱く、食害によるダメージが大きくなりやすいため注意が必要です。
また、1回の防除で終わるのではなく、断続的に飛来してくる性質があるため、長期的な観察と対応が求められます。発生時期を把握するだけでなく、“飛来の初期”をどう防ぐかが非常に重要になります。

2-2. 被害の内容:初期生育の停滞+ウイルス媒介という二重の脅威
ウリハムシの成虫は、成育初期の葉をかじって網目状の穴をあけるという典型的な被害をもたらします。葉が薄い状態で集中加害を受けると、光合成能力が著しく低下し、生育が極端に鈍ることもあります。
また見逃せないのが、ウイルス病の媒介リスクです。
代表的なものに「ズッキーニ黄斑モザイク病」や「キュウリモザイクウイルス」などがあり、これらは葉や果実に深刻な変形やしおれ、収量減を引き起こします。一度感染すると回復が見込めないため、発生前の予防が極めて重要です。
2-3. 特徴:飛来性が強く、発生源が圃場外にあることも
ウリハムシは飛翔力に優れ、一度駆除しても再び周辺から侵入してくるという厄介な特性を持っています。近隣の耕作放棄地や野生植物、未管理の雑草地などからも飛来する可能性があり、自分の圃場だけを管理していても完全には防ぎきれないのが現実です。
そのため、農薬による防除はもちろんのこと、防虫ネット・トラップ・物理的な遮断などを組み合わせて多層的に対処する必要があるのです。農薬散布のタイミングも「発生後の対処」ではなく、「飛来する前に撒いておく」予防的な使い方が効果を発揮しやすいことを覚えておきましょう。
3. ウリハムシに効果のある農薬とは?
ウリハムシは飛来性が高く、活発に動き回るため、見かけてから対処しても遅いケースが多く、農薬は「予防的な使い方」が基本となります。また、薬剤の選び方・使い方を間違えると十分な効果が得られず、「効かない」「すぐ戻ってくる」と感じる原因にもなります。
ここでは、ウリハムシに効果があるとされる代表的な農薬と、それぞれの使いどころを解説します。
ジノテフラン(商品例:スタークル、アルバリン)

ネオニコチノイド系の代表的な有効成分。浸透移行性があり、散布後に葉に吸収されて長く効果が持続するため、予防的な散布に向いています。
・圃場への定植前、苗にかけておくことで飛来初期の食害を防止
・根からの吸収を狙って潅注処理(潅水剤)にも使用可能
アセタミプリド(商品例:モスピラン)

こちらもネオニコチノイド系で、即効性が高く、食毒・接触毒どちらの効果も持つため、飛来初期の防除や、すでに発生が確認された場面にも使用可能です。
・葉裏までしっかりかけることが効果を引き出すポイント
・展着剤を併用すると付着性が向上し、効果が安定しやすい

スピノサド(商品例:スピノエース)

微生物由来の有効成分で、有機栽培でも使用可能な場合があり(作物・地域による)、耐性が出にくく、ローテーション防除に適しています。
・即効性はやや落ちるが、成虫への殺虫効果あり
・有機志向や減農薬の現場にも使いやすい
クロラントラニリプロール(商品例:プレバソンなど)

近年注目されている新系統の殺虫成分(アントラニルアミド系)で、比較的広範囲の害虫に効き、持続性もあるのが特徴です。
・登録がある作物に限られるが、ローテーションの一角に加えることで薬剤耐性のリスクを下げられる

散布のタイミングと方法が効果を左右する
どの農薬を使うにしても、ウリハムシが飛来する「前に撒いておく」ことが最大のポイントです。
特にネオニコチノイド系の薬剤は残効性があるため、定植直後または定植直前に散布することで、苗の防御力を高めることができます。
また、薬剤の効果を最大限に発揮するには、以下の点も重要です
- 葉裏や新葉にも丁寧に散布する(成虫は葉裏に隠れることが多い)
- 展着剤を使って、薬液の定着を良くする
- 数種類の薬剤を交互に使う(ローテーション)ことで、耐性発現を防ぐ
ウリハムシの防除において農薬は非常に有効ですが、単独では完全に抑えきれない場面も多くあります。特に飛来が断続的に続く年や、周囲に発生源がある場合は、農薬+物理的対策を組み合わせる「あわせ技」での対応が必要です。
4. 農薬だけに頼らない!効果を高める“あわせ技”対策
ウリハムシは飛来性が高く、農薬で一時的に駆除しても、周囲から次々と侵入してくる厄介な害虫です。とくに圃場の周囲に雑草や未管理地がある場合、その傾向は顕著になります。
だからこそ、農薬とあわせて物理的・環境的な対策を講じる“多層防除”が非常に効果的です。農薬の効き目を高め、飛来数そのものを抑える方法をいくつかご紹介します。
防虫ネット・寒冷紗で物理的に侵入をブロック
定植直後の苗はとくに食害に弱いため、活着までの期間は防虫ネットや寒冷紗で苗全体を覆うのが有効です。
・目合いは1mm以下が理想。
・地際や隙間からの侵入を防ぐため、ネットはしっかりと土に埋め込む or 押さえ込むのがポイント。
・苗が活着してからも、ネット内にウリハムシが入っていた場合は閉じ込めになってしまうため、定植時に混入させないよう注意。
黄色粘着トラップで飛来状況を可視化+誘引捕殺
ウリハムシは黄色に誘引される性質があり、黄色粘着トラップを設置することで早期飛来の確認が可能になります。
・防除のタイミングを判断する“モニタリングツール”として活用できる
・数を増やせばそのまま誘引捕殺にもなる
・ネットや農薬との組み合わせで効果が倍増
ウリハムシの忌避植物・混植を活用する
マリーゴールドやバジルなど、一部の植物にはウリハムシの嫌う香りを出す種類があります。
・ウリ科の周囲に混植しておくことで飛来をやわらげる可能性あり
・完全な忌避にはならないが、他の対策と組み合わせれば抑制効果が期待できる
反射資材・マルチで飛来抑制
ウリハムシは光の反射を嫌う性質があるため、銀色のマルチや反射シートを利用することで飛来数の抑制が期待できます。
・特に株元の地面が見える状況より、マルチで覆って反射光を生じさせる方が効果的
・反射資材は雑草抑制や乾燥防止の副次効果もあり、現場で導入しやすい
雑草管理と圃場周囲の清掃も忘れずに
ウリハムシの越冬場所や中間寄主となる雑草を放置しておくと、発生源になることがあります。
・圃場周囲の草刈り、耕作放棄地との距離の確保
・栽培期間外でも、ウリハムシが繁殖しやすい環境を減らすことが大切
🔍 防除は「重ねる」ことで効く
ウリハムシに対して最も効果的なのは、「農薬だけ」「ネットだけ」といった単体の対策ではなく、農薬+物理防除+環境管理の“あわせ技”による多層的な対処です。
それぞれの効果を理解し、自分の圃場環境にあった組み合わせを構築することで、被害の発生を最小限に抑えることができます。
5. まとめ:ウリハムシ防除は“複数対策の組み合わせ”が鍵
ウリハムシは、発生タイミングが読みづらく、飛来性も高いため、どれだけ丁寧に作物を育てていても、たった数日の食害で苗を枯らされるほどの厄介な存在です。さらに、ウイルス病を媒介するリスクもあるため、単なる「害虫被害」にとどまらず、作型全体に深刻な影響を及ぼすこともあります。
そのため、防除にあたっては農薬を正しく選び・正しいタイミングで使うことはもちろん、それだけに頼らず、物理防除・環境管理・栽培設計を重ねていく“複合的な対策”が重要です。
- 飛来前の予防的な農薬散布
- 定植初期の防虫ネット設置
- トラップや反射資材による飛来抑制
- 雑草管理や混植による圃場環境の改善
こうしたひとつひとつの対策は、単独では限界があるかもしれませんが、重ねて使うことで効果が相乗的に高まります。
ウリハムシ防除は“タイミング”と“積み重ね”が鍵です。
「これだけやっておけば大丈夫」という方法がないぶん、自分の圃場に合った対策を組み合わせ、柔軟に防除していく姿勢が成果を左右します。
本記事で紹介した内容をヒントに、ぜひ今年の作付けからウリハムシ対策を見直し、安定した初期生育と収量アップにつなげていきましょう。
