カメムシ被害を防ぐには?効果的な農薬と防除のポイント解説

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目次

1. はじめに:気づいたときには手遅れ?カメムシ被害の厄介さとは

カメムシ

カメムシは、見た目の地味さとは裏腹に、農作物に深刻な被害を与える吸汁性害虫です。特に果樹や水稲、豆類、果菜類など幅広い作物を加害し、収穫直前まで気づきにくく、気づいたときにはすでに品質が落ちていた…というケースも少なくありません。

例えば水稲では斑点米、果樹では奇形果や変色果、野菜では吸汁痕が残り、商品価値を大きく損ないます。見た目には食害痕がわかりづらく、収穫後に出荷基準でハネられてしまうなど、農家にとって大きな痛手となるのがカメムシ被害の怖さです。

さらに近年では、温暖化や耕作放棄地の増加により、カメムシの発生地域が広がっており、従来は被害の少なかった地域や作物でも注意が必要になっています。

「農薬を散布しているのに被害が出る」「いつの間にか侵入している」――こうした声が現場で多く聞かれるのも、カメムシの移動性・繁殖力・潜伏性といった特性によるものです。

本記事では、カメムシに効果的な農薬の選び方や使い方、効かせるためのタイミング、そして農薬だけに頼らない防除の考え方まで、現場で活かせるポイントをわかりやすく解説していきます。
見逃しやすく、対応が後手に回りがちなカメムシ対策を、今年こそ万全に備えましょう。

2. カメムシの種類と被害の特徴を知る

カメムシとひとことで言っても、その種類は非常に多く、農業被害を引き起こす種類は数十種以上にのぼります。見た目がよく似ていても、生態や好む作物、発生時期に違いがあるため、どの種類が発生しているかを把握することが防除の第一歩です。

2-1. よく見られる代表的なカメムシの種類

  • チャバネアオカメムシ
     全国的に広く分布し、稲や果樹、豆類、野菜まで幅広く吸汁加害する最も代表的な種類。
  • アオクサカメムシ
     水稲や豆類への加害が多く、特に斑点米の原因として知られています。
  • クサギカメムシ
     近年、都市部や果樹地帯での発生が増加。ナシ・モモなどへの被害が目立ちます。
  • ホソヘリカメムシ
     果実や野菜の実を加害し、奇形や変色を起こす。ナス・ピーマン・キュウリなどで問題に。

これらはすべて吸汁性害虫で、口針を差し込んで果実や葉の内部組織の液を吸うことで、見た目以上に深刻な生理障害を引き起こすのが特徴です。

2-2. 作物別に見る主な被害内容

  • 水稲:出穂期〜登熟期に吸汁されることで斑点米や未熟粒が発生。食味・品質が低下し、等級にも影響。
  • 果樹(ナシ・モモ・リンゴなど):果実の吸汁痕から変色・へこみ・硬化が起き、見た目の品質を大きく損なう
  • 野菜(ピーマン・ナス・ダイズなど):果実に褐変や奇形、変色した沈着痕が残り、出荷不可となるケースも。
  • 豆類・大豆:莢の内部を吸汁されることで、実入りの悪化や変形、収量低下の原因に。

これらの被害は、収穫直前まで目立たないことも多く、防除のタイミングを逃すと取り返しがつかない損失に直結します。

2-3. 発生時期と活動パターンも重要

カメムシは多くの種類で年に数回発生する多化性の害虫です。成虫は越冬し、春先から活動を再開し、夏〜秋にかけてピークを迎えることが多いです。
また、気温や周囲の環境(雑草、果樹、休耕地など)の影響を強く受けるため、発生時期や被害リスクは地域や年によっても変動します。

このように、カメムシの種類・発生特性・加害作物をしっかり把握することが、正しい農薬の選定や防除タイミングの判断に欠かせません。

3. カメムシに効果的な農薬とその使い方

カメムシ対策では、「いつ、どの農薬を、どう使うか」が防除成功の鍵になります。発生の兆候を見逃さず、タイミングよく効果的な薬剤を使用することで、被害を最小限に抑えることが可能です。

ここでは、カメムシに対して実績のある代表的な農薬と、それぞれの特徴や使い方のポイントをご紹介します。

ピリダリル(商品例:ベネビア)

ベネビア

浸透移行性と接触毒性を併せ持ち、カメムシ類に対して高い効果を示します。
作物の表面だけでなく内部組織にも作用し、果菜類や果樹などへの吸汁を効果的に抑えることが可能です。
耐性リスクも低めで、ローテーションにも適しています。

アセタミプリド(商品例:モスピラン)

モスピラン

ネオニコチノイド系の代表格で、多くの作物に登録があり、幅広い害虫に効くことが特長です。
接触毒と食毒の両方の効果があり、散布後の残効性も高いため、防除の間隔をあけたい場合に有効です。

エトフェンプロックス(商品例:トレボン)

トレボン

有機リン系・ピレスロイド系に比べて人畜毒性が低く、幅広い作物で使いやすいのが魅力。
成虫の行動を抑制する効果もあり、飛来直後のタイミングで使用するとより効果的です。

その他の有効成分

ジノテフラン(スタークルなど):浸透移行性が強く、カメムシの予防・初期防除に有効。
フルベンジアミド、クロラントラニリプロール:チョウ目中心の薬剤だが、組み合わせで効果あり。
スピノサド(スピノエース):有機対応にも使える場面がある(作物により異なる)。

散布タイミングと使い方のポイント

どの農薬を使う場合でも、防除効果を最大限に引き出すにはタイミングと散布精度が重要です。

  • 飛来直前〜直後の対応が最も効果的。害虫の定着を防ぐには、初期に対応するのが理想です。
  • 産卵期や若齢幼虫期を狙って散布することで、次世代の発生抑制にもつながります。
  • 葉裏や果実まわりなど、薬剤が届きにくい場所にもきちんと散布することが大切。展着剤を併用すれば、薬剤の定着性が向上します。
  • 同じ系統の薬剤を繰り返すと耐性がつきやすいため、ローテーション防除を意識すること。

カメムシは移動力が高く、一度防除しても周囲から再侵入することが多いため、薬剤の選定と併せて「定期的な観察」「複数回の計画的な防除」も重要なポイントです。

4. 農薬が効かない原因と防除の落とし穴

「カメムシに農薬をまいたのに、なぜか効いていない」「毎年防除しているのに被害が出る」――そんな声は多くの現場で聞かれます。
実際、農薬の効果が出ない背景には、散布タイミングや方法、環境要因など複数の“落とし穴”が潜んでいます。
ここでは、よくある原因とその対策について解説します。

タイミングのズレ:飛来や産卵を見逃している

カメムシは飛来性が高く、発見してから薬剤をまいても、すでに産卵が済んでいることがあります。
また、若齢期よりも成虫の方が農薬への感受性が低いため、発見時期が遅れると効果も落ちやすくなります。

【対策】
飛来予測や過去の発生記録をもとに、事前散布を検討する
・黄白色トラップやフェロモントラップを設置して、飛来初期を視覚化する
・作物のステージ(出穂期・果実肥大期など)に応じた防除計画を立てる

散布ムラ・薬液の届いていない場所がある

カメムシは葉裏や果実の付け根、隠れやすい場所に潜むため、表面に軽く散布しただけでは十分に効果を得られません。
特に茂った果菜類や果樹では、薬剤が届くべき場所に届いていないケースが多発します。

【対策】
ノズルの角度や圧力を調整して、葉裏・枝の奥まで丁寧に散布する
展着剤を併用して、薬液の定着力・浸透力を高める
・収穫物に近い部位には、安全性の高い薬剤を適切に選定する

耐性の蓄積:同一系統の薬剤を繰り返し使用している

長年同じ農薬を使用し続けていると、カメムシの個体群が薬剤に対して耐性を持つ可能性が高まります。
特にネオニコチノイド系やピレスロイド系など、汎用性の高い薬剤は無意識に“いつも同じ”を繰り返しやすい傾向にあります。

【対策】
異なる作用機構(系統)の薬剤をローテーションで使用する
・一作型内でも、複数成分を組み合わせた計画的な防除設計を行う
・防除履歴を記録し、連用を避ける仕組みをつくる

発生源対策が不十分:圃場の外から繰り返し侵入している

カメムシは圃場外から飛来してくるため、周囲の雑草地、山林、耕作放棄地などが発生源になっている場合、いくら防除しても被害が止まりません。

【対策】
圃場周辺の雑草刈りや管理を徹底する
・近隣農地との連携を取り、面的な防除(共同防除)を検討する
発生源になりやすい植物(クズ、アカメガシワなど)を取り除く努力も重要

どんなに高性能な農薬でも、「かければ効く」わけではありません。防除効果を最大限に引き出すには、発生の予測・タイミング・散布の技術・環境管理など、多面的な視点が必要です。

5. 農薬以外にもできるカメムシ対策

防虫ネット

カメムシの被害を防ぐうえで、農薬は有効な手段のひとつですが、それだけでは限界があるのが現実です。特に飛来性の高いカメムシは、薬剤を散布しても次々と周囲から侵入してくるため、“農薬だけに頼らない多層的な防除”が必要になります。

ここでは、農薬とあわせて取り入れたい、物理的・環境的・予防的なカメムシ対策をご紹介します。

防虫ネット・袋がけで物理的に侵入を防ぐ

果樹や高設栽培などでは、防虫ネットや果実の袋がけによって、カメムシの物理的な侵入を防ぐ方法が効果的です。
果実や果房をネットや袋で覆うことで、成虫が直接吸汁できない状態をつくり、奇形果や変色果の発生を大幅に抑えることができます。

特にモモやナシなど、被害が見た目に直結する作物では、薬剤と並行して導入すべき基本対策のひとつです。

トラップの活用で発生状況を可視化+誘引捕殺

カメムシは光や色に誘引されやすい性質があるため、黄色や白色の粘着トラップを圃場内外に設置することで、飛来状況を可視化できます。
また、性フェロモンを利用したトラップも一部の種類に対して有効で、防除タイミングの見極めや飛来量の監視に役立ちます。

粘着板を“防除”と位置づけるというより、「予測と観察のためのツール」として使うことで、防除計画の精度を高めることが可能です。

圃場周辺の雑草・発生源植物の除去

カメムシは圃場外の雑草や山林、休耕地などから飛来することが多く、発生源そのものを減らすことが被害抑制に直結します。
特にクズやアカメガシワなど、カメムシが好む植物が近くにある場合は、草刈りや伐採などで発生源を除去することが重要です。

また、畦や畔の草丈が高くなると、カメムシの隠れ場所となって薬剤が効きにくくなるため、定期的な管理が必要です。

圃場外からの侵入を前提に、防除の“囲い”を意識する

カメムシは飛翔力が強いため、「圃場の中だけを守る」意識では十分な防除が難しいケースが多々あります。
そこで有効なのが、圃場の外周にあらかじめ薬剤を散布して“侵入ライン”を設ける方法です。

いわば“外からの防波堤”をつくるイメージで、飛来が予測される時期に圃場の周囲に重点散布を行い、虫の侵入を未然に防ぐように設計します。
この手法はとくに、水稲や広域果樹園などで高い効果が見込まれます。

有機・減農薬栽培での対処法

有機JASや特別栽培など、農薬使用に制限のある現場では、防虫ネット、トラップ、袋がけ、草刈りといった“非化学的防除”が主軸となります。
加えて、一部のスピノサド製剤(例:スピノエース)など、有機対応の農薬を適切に併用することで、害虫密度のコントロールが可能です。

薬剤に頼りすぎないことで、天敵や自然環境を生かした長期的な防除にもつながります。

🔍 農薬+αの組み合わせが、結果的に効果を高める

カメムシは「1回まいて終わり」の相手ではありません。防除効果を安定させるためには、農薬の効果を補強し、無駄なく効かせる環境をつくることが不可欠です。

物理防除・環境整備・観察の仕組みづくりを通じて、トータルでカメムシの密度を下げる“仕組み”を整えることが、最終的な被害軽減につながります。

6. まとめ:カメムシ防除は“早期対応と多層対策”がカギ

カメムシによる農作物の被害は、収穫間際になってようやく気づくことも多く、品質や収量に深刻な影響を及ぼす厄介な問題です。特に水稲の斑点米や、果樹・野菜の変色果・奇形果などは、見た目の問題から出荷停止や等級ダウンにもつながり、経営面での損失は計り知れません。

そんなカメムシ対策で最も重要なのが、「早期対応」と「多層的な対策」の組み合わせです。発生してから対応するのではなく、飛来や産卵のタイミングを予測して、先回りして防除する意識が必要です。そのうえで、農薬による初期防除を基本としながら、ネット・袋がけ・トラップ・雑草管理などを組み合わせて、カメムシを寄せつけない圃場環境を整えることが、防除効果を長持ちさせるポイントになります。

また、農薬を使う場合も、効果的な成分の選定、正しい散布方法、そして薬剤ローテーションによる耐性対策まで含めて計画的に実行することが大切です。“かけているのに効かない”という状況を避けるためにも、使い方とタイミングを見直していく必要があります。

カメムシ防除は「この方法だけで完璧」という万能策があるわけではありません。だからこそ、自分の作物・作型・地域特性に合わせた多角的な対策設計がカギとなります。

本記事を参考に、今年のカメムシ対策を“前倒し”で考え、被害ゼロを目指す実践的な一歩を踏み出していただければ幸いです。

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