1. はじめに:イチゴは“甘くて難しい”作物?でも、コツを押さえれば安定栽培できる

イチゴは見た目にも華やかで、甘くて人気のある果菜類。
スーパーや直売所、観光農園などでも需要が高く、「育ててみたい」と考える方も多い作物です。
しかし実際の栽培現場では、「病気が多くて収量が安定しない」「甘くならない」「株が弱って途中でダメになる」といった声も多く聞かれます。
確かにイチゴは、環境の変化に敏感で、管理の手を抜くとすぐに影響が出る繊細な作物です。
特に、湿気・日照不足・肥料のバランスなどが悪いと、病害の発生や実の品質低下に直結します。
ですが、裏を返せば、栽培のコツさえ押さえればしっかり収穫できる作物でもあるのです。
農家では、安定して収量と品質を確保するために、「苗選び」「水と肥料の管理」「病害虫対策」などを積み上げた栽培技術を実践しています。
本記事では、そうした農家視点の実践ノウハウをベースに、家庭菜園にも応用できる形で、
イチゴの育て方から管理のコツ、よくある失敗とその対策までをわかりやすく解説します。
「甘くて立派なイチゴを、自分の手で育てたい」という方にとって、栽培のヒントとなる内容をお届けします。
2. イチゴ栽培の基本情報と育てるメリット
イチゴはナス科やキュウリと並び、野菜のようで果物のような存在感を持つ果菜類です。
分類上は多年草ですが、実際の栽培では秋に苗を植え、春に収穫して更新する「一年草的」な扱いが一般的です。
主な収穫期は4月〜6月頃で、早い地域や施設栽培では12月〜出荷が始まるケースもあります。
2-1. 一季成りと四季成り、どちらを選ぶ?
イチゴには「一季成り」と「四季成り」の2タイプがあります。
- 一季成り: 春に一度だけ収穫するタイプ。栽培管理に慣れている農家で主流。
品種例:とちおとめ、あまおう、紅ほっぺ、章姫など - 四季成り: 条件がそろえば春〜秋まで繰り返し実をつける。家庭菜園や鉢植え向け。
品種例:めちゃウマ、宝交早生、夏姫など
農業従事者にとっては、一季成りで計画的に収穫・販売するスタイルが一般的ですが、
家庭菜園や観賞栽培なら、四季成りで長く楽しむという選択もありです。

2-2. イチゴを育てるメリットとは?
イチゴは手間はかかるが、その分リターンも大きい作物です。以下のようなメリットがあります。
- 単価が高く、ブランド価値をつけやすい(特に直売・観光農園・贈答用など)
- 育てて楽しい、収穫して嬉しい、食べて美味しいと三拍子そろった作物
- 栽培管理をしっかり行えば、品質・収量ともに安定しやすい
- 家庭菜園では、子どもや初心者でも育てやすく達成感がある
また、露地でも施設でも対応でき、小規模〜大規模まで幅広く取り組める柔軟性も魅力です。
ハウス加温・高設ベンチ・液肥栽培など、技術の進化によって省力化や高収益化も進んでいる分野でもあります。
3. 苗選びと植え付け時期のポイント

イチゴ栽培の成否は、「最初の苗選び」で8割決まると言われるほど、苗の質は非常に重要です。
弱い苗を選んでしまうと、活着不良・病気の発生・収量減につながるため、しっかりと状態を見極めて良苗を選ぶことが栽培の第一歩です。
3-1. 良い苗の条件とは?
農家向けの親苗から育てた苗、市販のポット苗など様々なタイプがありますが、共通して以下の点をチェックしましょう。
- クラウン(株の中心)が太く、しっかりしている
- 根が白くて多く、元気よく伸びている(透明ポットの場合は外から確認可能)
- 病斑や害虫、枯れ葉がなく、葉の色が濃すぎず薄すぎず健康的
- 葉の枚数が3枚以上あるものが理想(極端に小さい苗は避ける)
苗の段階で生育ムラがあると、そのまま収穫量の差や病気の原因になります。
可能であれば、信頼できる種苗店や育苗農家から購入するのがおすすめです。
3-2. 植え付けの時期と環境づくり
- 露地栽培の適期:10月上旬〜中旬(関東基準)
- ハウス(施設)栽培の場合は9月中旬〜10月初旬にかけて
- 遅れると根張りが悪くなり、冬越しが不安定になって春の収量が落ちるので注意
植え付け前には、以下の環境を整えておきましょう
- マルチフィルムの準備(黒マルチ・透明マルチなど用途に応じて)
- 畝立て(高畝)と灌水チューブの設置(施設の場合)
- 元肥の施用と土壌pHの確認(6.0〜6.5が理想)
3-3. 植え付け時の注意点
植え付けは一見簡単に思えますが、ちょっとしたミスが後の生育に大きく響きます。
- クラウン(株の中心)を土に埋めすぎないこと!
→ 深植えは根腐れ・クラウン腐敗の原因に - 根はほぐさず、まっすぐ自然に広げて植える
- 植え付け後すぐにたっぷりと灌水し、しっかりと土となじませる
土との密着が悪いと活着が遅れ、生育初期のつまずきが後々まで影響します。
健全な苗を適期にしっかり植えることで、イチゴは冬を越えて春にかけてぐっと力を蓄え、安定した収量につながっていきます。
4. 栽培中の管理|水やり・追肥・整枝・病害虫対策
イチゴ栽培では、定植後から収穫期までの管理が収量と品質を大きく左右します。
甘くて形の良いイチゴを育てるには、「水やり」「肥料管理」「株の整え方」「病害虫の予防と対応」をバランスよく行うことが不可欠です。
ここでは、農家が実践する日常管理の要点を整理して紹介します。
4-1. 水やり|過湿・乾燥どちらもNG
イチゴは乾燥に弱い一方で、過湿にも極めて敏感な作物です。
特に、冬場の乾燥・春先の高温多湿期の水管理が重要になります。
- 定植直後〜活着まで: しっかりと水を与え、根の張りを促す
- 冬場(露地): 雨が少ない時期は週1〜2回の灌水を基本に
- 収穫期(春): 気温上昇とともに蒸散が増えるので、朝にたっぷり水を与える
常に「土の中の湿り気が保たれているか」を意識し、地表だけで判断しないのがコツです。
4-2. 追肥|肥料の効かせすぎに注意
イチゴは肥料を与えすぎると徒長や病気、果実の品質低下を招くため、必要な時期に必要な分だけ追肥するのが基本です。
- 追肥のタイミング:
① 冬の株が動き出す時期(2月頃)
② 収穫開始直前(3月〜4月) - 施肥内容:
窒素分は控えめ、カリウムと微量要素を中心に補うのがポイント
例:8-8-8 や 5-10-10 の化成肥料を1株あたり5〜10g程度
チッソ過多は実が大きくならず、酸味が出やすくなる原因になります。
4-3. 整枝・ランナー取り|風通しと養分集中が目的
イチゴは放っておくとランナー(つる)や古い葉が混み合い、風通しが悪くなって病気を呼び込みやすくなります。
- ランナーは早めに切除し、親株の体力を維持
- 黄変した葉・古葉はこまめに摘み取り、光と風を通す
- つぼみが出たら、葉かきで花房が日光に当たるよう調整するのも収穫量アップにつながります
株が健康であれば、果実に栄養が集中し、サイズ・糖度ともに良好な実ができやすくなります。
4-4. 病害虫対策|予防が最も重要
イチゴは病害虫に非常に敏感で、とくにハウスや密植環境ではトラブルが起きやすくなります。
- 主な病害: 灰色かび病、うどんこ病、炭そ病
- 主な害虫: アブラムシ、ハダニ、ヨトウムシ、ナメクジなど
対策の基本は以下のとおり
- 風通しを良くし、葉の過密を避ける
- 病気に強い品種を選ぶ(特に家庭菜園向け)
- 防虫ネット+マルチングで虫の侵入と泥はねを防止
- 必要に応じて農薬を使用(農業従事者は登録農薬を遵守)
灰色かびやうどんこ病は、収穫期に一気に広がるため、発生初期の見逃しが命取りになります。
イチゴは「繊細」だからこそ、ちょっとした手入れがダイレクトに実に反映される作物です。
丁寧な観察と管理で、見た目にも味にも納得できるイチゴを目指しましょう。

5. 収穫と管理のコツ|甘くて形の良いイチゴを採るには?

イチゴの収穫は、単に赤くなった実を摘むだけではありません。
「いつ・どのように」収穫するかによって、糖度・香り・見た目に大きな違いが出ます。
また、収穫期の株管理を丁寧に行うことで、果実のサイズや収量、病気の発生にも影響します。
ここでは、プロも実践する“おいしいイチゴ”を採るための具体的な収穫と管理のポイントをご紹介します。
①収穫のタイミングは「完全に色づいた朝」
イチゴは、赤くなってからさらに甘みがのるまでにわずかな時間がかかる果実です。
収穫のベストタイミングは、果皮がヘタの近くまでしっかりと色づいた朝の時間帯。
夜間は呼吸が少ないため糖の消耗が少なく、朝のイチゴはより甘さを感じやすくなります。
反対に、昼や午後の収穫では実が柔らかくなりすぎたり、風味が落ちる場合があります。
完熟直前で慌てて収穫するのではなく、しっかりと熟したタイミングを見極めることが甘くておいしいイチゴを収穫するコツです。
②収穫方法|手もぎかハサミか
収穫の方法は、栽培スタイルや作業量に応じて選びます。
家庭菜園や小規模栽培では、実を軽く持ち上げてヘタの上をひねる「手もぎ」で十分対応できますが、収穫量が多い場合や出荷を意識する場合は、ハサミでヘタの上を斜めにカットする方法が適しています。
どちらの場合でも、果実を押さえすぎないように優しく扱い、収穫後はすぐに日陰や冷所で保管するのが品質保持のポイントです。

③甘くて大きな実をつくる仕上げ管理
収穫期には、株の管理を少し意識するだけで、果実の甘さや形に大きな差が出ます。
葉が混み合っていると花や果実に日が当たらず、糖の蓄積が不十分になりやすいため、不要な葉を適度に取り除いて日照と風通しを確保することが大切です。
また、水の与えすぎは果実の水っぽさや病気を引き起こす原因になるため、収穫期はやや乾かし気味に管理することで、糖度がのりやすくなります。
追肥は必要以上に与えず、窒素を抑えてカリウム主体の施肥に切り替えることで、味のバランスを崩さず、株疲れも防げます。
低温や栄養過多、花粉不足は実の形がいびつになる原因にもなるため、施設栽培では人工授粉を併用すると安定します。
④収穫中も「株の健康」を意識する
収穫が始まるとつい実の方に目が行きがちですが、株全体の健康管理も同じくらい重要です。
ランナーや古い葉を放置すると病気の温床になるため、こまめに取り除くことが予防になります。
また、病気や変色が見られる実をそのままにしておくと周囲に感染するリスクがあるため、早めに除去することが結果的に他の果実の品質を守ることにつながります。
花が咲いても実がならない場合は、受粉がうまくいっていない可能性があり、晴天の日中に軽く花を揺らしてやるなどの人工授粉が有効です。
🔍 ポイントは「収穫と管理をセットで考える」
イチゴは、栽培の“仕上げ”である収穫期の管理こそが、品質を左右する大きな分かれ目。
果実を育てるという意識だけでなく、「光を当てる・水を調整する・株を清潔に保つ」といった細やかな観察と手入れを重ねることで、甘さ・大きさ・美しさを備えた実を安定して得ることができます。
6. よくある失敗とその対策
イチゴ栽培は、成功すれば収穫の喜びが大きい作物ですが、管理に気を抜くとすぐにトラブルが起きやすい繊細な一面も持っています。
ここでは、農業現場でも家庭菜園でもよく見られる失敗例を取り上げ、その原因と具体的な対策をわかりやすく解説します。
①苗が根付かない・枯れてしまう
植え付けから数日〜1週間以内に苗がしおれたり、枯れてしまうケースは、定植ミスや水分管理の不備が主な原因です。
クラウン(株の中心)を土に埋めすぎたり、逆に浅すぎて乾燥したりすると、根がうまく活着できません。
対策としては、植え付け時にクラウンの位置を地表と同じ高さにし、根を無理にほぐさず自然に広げて植えることが大切です。
また、植え付け直後は土と苗の密着を高めるために、たっぷりと灌水し、乾燥を防ぐように管理します。
②花が咲かない・実がつかない
「花が咲かない」「花は咲いても実がならない」といったケースは、光不足や肥料バランスの崩れが原因になっていることが多いです。
また、施設栽培や無風の環境では、受粉が不十分になりやすく、結実率が落ちることもあります。
対策としては、日当たりの良い場所で管理することを基本とし、窒素の与えすぎを避けて花芽分化を促す肥料設計に切り替えること。
人工授粉が必要な場合は、晴天時に指や綿棒で花を優しく触れるだけでも受粉効果が得られます。
③実が小さい・形が悪い・酸っぱい
果実が小さくて味が薄い、形がいびつで商品価値が下がるといった場合は、株の体力不足、肥料の過不足、または低温・高湿などの環境要因が関係しています。
とくに栽培後半にチッソ肥料を多く与えすぎると、葉や茎ばかりが元気になり、実が太らず酸味が強くなる傾向があります。
また、風通しが悪くなると花粉の飛散や光合成効率が落ち、果実の形が不揃いになる原因にも。
対策としては、肥料は控えめに、葉かきで日光と風通しを確保し、栽培環境を整えることが重要です。
早い段階から適切な整枝と株間の確保を行いましょう。
④気が広がる・突然枯れる
イチゴは病害に弱く、特に灰色かび病・うどんこ病・炭そ病などは発生すると株ごとダメになるリスクがあります。
風通しが悪く、湿度が高い状態が続くと発生しやすくなり、一度病気が入ると他の株にも連鎖しやすいのが厄介です。
病気を予防するには、日頃から株元の古葉や不要なランナーをこまめに取り除き、通気性を保つことが第一です。
また、雨の日の収穫や作業は控え、泥はねや水滴を避けるようにマルチや敷き藁を活用すると効果的です。
🔍 トラブルは“兆候の早期発見”と“丁寧な観察”がカギ
イチゴ栽培のトラブルは、原因が重なっていることも多く、「なんとなく元気がない」「形がそろわない」といった小さな異変を放置しないことが大切です。
毎日株をよく観察し、気になるサインがあれば早めに対処することで、大きな失敗を防ぐことができます。
7. まとめ:イチゴ栽培は「丁寧な観察と適切な手入れ」が成果を分ける
イチゴは、見た目の可愛らしさや味わいの華やかさから、栽培する喜びの大きい作物です。
しかし同時に、環境の変化や栽培管理のミスに敏感で、「育てやすそうに見えて、実は奥が深い」野菜でもあります。
それでも、栽培の基本を押さえ、日々の変化に目を向けていけば、初心者でも甘くて立派な実を育てることは十分可能です。
とくに大切なのは、「毎日の観察」と「適切なタイミングでの手入れ」。
少しの葉色の変化、花の咲き具合、果実の様子に気づくことで、早めの対処ができ、病害や生育不良を防ぐことができます。
農業従事者にとっては、収量と品質の安定が最大の目的になりますが、家庭菜園であっても、ちょっとしたプロの視点や管理法を取り入れることで、驚くほど味の良いイチゴが収穫できます。
イチゴ栽培は、手間をかけただけの成果が返ってくる作物です。
だからこそ、栽培を通じて得られる経験と、収穫の喜びはひとしお。
ぜひ、今回ご紹介したポイントを参考に、自分なりの栽培スタイルで、おいしいイチゴづくりにチャレンジしてみてください。