1. はじめに|きくらげが“今”注目されているワケ

「きくらげ」と聞くと、炒め物や中華スープの“脇役”という印象を持つ方も多いかもしれません。
しかし近年、このきくらげが健康食品としての価値や市場でのニーズの高まりから、栽培作物として大きな注目を集めています。
背景にあるのは、健康志向やヴィーガン志向の拡大、そして“国産きくらげ”の希少性です。現在、日本で流通しているきくらげの9割以上は中国などからの輸入品が占めています。一方で、国内で生産されるきくらげは品質が高く、飲食店や小売店、消費者の間で「安全・安心・高品質な国産品」が求められるようになってきました。
さらに注目すべきは、きくらげが高単価で取引されることと、省スペース・省力で栽培できるという“栽培面でのメリット”です。
菌床を使えば、ビニールハウスや空き倉庫などでも栽培可能で、初期投資も比較的抑えられます。これにより、「副業として」「農業の合間に」「退職後の収益源に」など、多様なスタイルでの導入が可能です。
この記事では、なぜきくらげ栽培が今注目されているのか、どんなメリットがあるのか、そして実際に始めるには何が必要かといったポイントを、初心者にもわかりやすく解説していきます。
「地味だけど堅実」な栽培ビジネスとして、きくらげが持つ可能性をぜひ一緒に見ていきましょう。
2. きくらげってどんなキノコ?|栄養価と市場価値
きくらげは、キクラゲ科に属するキノコで、日本では主に木耳(きくらげ)と呼ばれ、昔から中華料理や和え物などに使われてきた食材です。外見はやや地味ですが、その中身には驚くべき栄養価と、実は“高い市場価値”が秘められています。
2-1. 驚くほど豊富な栄養素
きくらげは、低カロリーでありながら栄養価が非常に高く、「食べる健康食材」としても注目されています。
主な栄養成分は以下の通りです:
- ビタミンD:骨の形成に重要で、不足しがちな栄養素。きくらげはキノコ類の中でもトップクラスの含有量。
- 食物繊維:腸内環境の改善、血糖値の安定化に役立つ。
- 鉄分・カルシウム:女性や高齢者に嬉しい栄養素が多く、貧血や骨粗しょう症の予防にも。
- コラーゲン類似成分(多糖体):肌の健康維持にも良いとされ、美容目的での摂取ニーズも増加中。
とくに乾燥きくらげは、栄養が凝縮されていて保存性も高く、日常的に取り入れやすい食品として、スーパーやネットショップでも需要が拡大しています。

2-2. 国産きくらげは“希少価値が高い”
現在、日本で流通しているきくらげの約9割以上が輸入品(主に中国産)です。これに対し、国産きくらげは生産量が限られており、飲食店や小売店からの「国産指定ニーズ」が非常に高まっているのが現状です。
- 「安心・安全」な食材として消費者に選ばれやすい
- 飲食店・直売所・ふるさと納税などで国産表示が強みになる
- 乾燥品に加工すれば、保存・販売・配送がしやすく、販路が広がる
このように、きくらげは小規模でも差別化・付加価値を出しやすい作物であり、他のキノコと比べても高単価で販売される傾向にあります。
2-3. きくらげの市場価格(目安)
品種・形態 | 単価(目安) | 販売形態例 |
---|---|---|
乾燥きくらげ(国産) | 100gあたり 400〜800円 | 直売所・ネット通販・業務用 |
生きくらげ(国産) | 100gあたり 200〜400円 | 飲食店・地場スーパー・青果店 |
加工品(佃煮・炒め物) | 小パックで300〜600円 | 道の駅・ギフト商品・セット販売 |
※生産地域・品質・ブランド化の有無で価格に差があります。
健康ニーズの高まりとともに、きくらげは今、“目立たないけど売れる”作物として注目を集めています。
3. なぜ今、きくらげ栽培が注目されているのか?
かつては中華料理の脇役として扱われていたきくらげが、近年になって栽培作物としての注目を集めている理由は、いくつかの社会的・経済的背景と、生産面での魅力が重なっているからです。
ここでは、今なぜきくらげ栽培が“始めどき”なのか、その主な要因を解説します。
理由①:国産きくらげへの需要増
現在、市場に出回っているきくらげの約9割以上が中国を中心とする輸入品。しかし近年、食の安全や品質に対する意識の高まりから、国産品への切り替えニーズが急増しています。
特に:
- 飲食店・業務用:「国産指定」の注文が増加
- 小売・直売所:“安心・無農薬・国内生産”を求める声が多い
- 健康・美容食品市場:ビタミンDや食物繊維が豊富な食品として再評価
こうした背景から、国産きくらげは希少価値が高く、高単価で安定販売がしやすい品目となっています。
理由②:小規模でも始めやすい・収益化しやすい
きくらげは他の野菜や果樹と違い、省スペース・省力で始められる点が大きな魅力です。
- 栽培は菌床(培養済みのブロック)を並べるだけでスタート可能
- 土地や広い圃場が不要(ビニールハウス・空き倉庫・車庫などでも可)
- 機械化不要・作業もシンプルで、高齢者や女性でも無理なく続けやすい
- 加工品(乾燥・冷凍)にしやすく、ロスが少なく販売計画が立てやすい
つまり、「初期投資を抑えたい」「農業の合間にやりたい」「副業的に収入を増やしたい」という方にとって、非常に現実的で始めやすい作物なのです。
理由③:栽培リスクが低く、気候に左右されにくい
きくらげは、温度と湿度さえ管理できれば通年生産も可能な作物です。
特に菌床栽培では、以下のようなメリットがあります:
- 気象の影響を受けにくい(ハウス・屋内管理でOK)
- 病害虫の発生が少なく、農薬不使用も実現しやすい
- 短期間で収穫(定植から2〜3か月程度)→キャッシュフローが早い
他の作物に比べて、収益予測が立てやすく、リスク管理がしやすい点も魅力のひとつです。
理由④:加工・販路展開がしやすい
きくらげは乾燥・冷凍・レトルトなど、加工耐性が高い作物です。
そのため、以下のような多様な販路が狙えます:
- 飲食店・直売所・ネットショップ
- ふるさと納税の返礼品
- 健康食品や美容系のセット商品としての展開
- 加工品(佃煮・きくらげご飯の素など)としての高単価販売
生鮮品として出荷するだけでなく、自分で付加価値を加えることでさらなる収益化も可能です。

このように、市場のニーズ、作業負担、収益性、販路展開のしやすさといった要素が揃っているきくらげ栽培は、
「新しい柱を探している農家」「副業を始めたい個人」「地域資源を活かしたい人」にとって、非常に現実的で魅力ある選択肢といえるでしょう。
4. きくらげ栽培の方法|原木と菌床、それぞれの特徴
きくらげの栽培方法には、大きく分けて「原木栽培」と「菌床栽培」の2種類があります。
それぞれに必要な設備・管理の手間・収穫までのスピード・風味や収益性などに違いがあり、目的や経営スタイルに応じて選ぶことが重要です。
ここでは、それぞれの栽培方法の特徴を整理し、自分に合ったスタイルを見極めるためのヒントをご紹介します。
4-1. 菌床栽培|省スペース・省力でスタートしやすい

菌床栽培とは、あらかじめきくらげ菌が植え付けられた培養済みの菌床ブロックを仕入れ、それを棚などに設置して育てる栽培方法です。
栽培に必要な温度や湿度の管理さえできれば、ビニールハウスはもちろん、空き部屋や納屋、倉庫などの限られたスペースでも十分に栽培が可能です。適切な環境を整えてやれば、定植からわずか2〜3か月ほどで収穫が始まり、成長スピードも比較的早いため、短期間で結果が出やすいのが大きな魅力です。作業内容も菌床の設置、水やり、湿度調整、収穫といった軽作業が中心となるため、高齢者や女性の方でも無理なく取り組むことができます。
メリット
- 専門的な技術が不要、初心者でもすぐ始められる
- 設備投資が比較的少なく済む(棚・遮光・加湿器程度でOK)
- 年間複数回の栽培が可能で、収益の回転が早い
- 栽培環境をコントロールできるため、安定品質の生産がしやすい
デメリット
- 菌床は購入が必要(1ブロックあたり数百円)
- 高温時の管理や湿度管理に手間がかかる場合も
向いている人
・副業や小規模経営でまずは始めてみたい方
・空きハウス・倉庫・納屋などの活用を考えている方
・労力・時間に限りがある中で効率よく収益を得たい方
4-2. 原木栽培|自然の力で、風味・肉厚にこだわる栽培

原木栽培は、クヌギやコナラといった広葉樹の丸太に専用の種駒(たねこま)を打ち込み、自然環境の中でじっくり育てていく方法です。
菌糸が原木の内部に行き渡るまでには時間がかかり、実際にきくらげが発生し始めるまでには、おおよそ半年から1年以上を要するのが一般的です。ただし、一度原木を仕込めば、1回限りで終わることはなく、休眠期を含めながらも数年間にわたって収穫を繰り返すことができます。成長には時間がかかるものの、自然の風味や肉厚な仕上がりにこだわりたい方、里山資源を活かしたい方には特に向いている栽培方法です。
メリット
- 土着の資源(山林・雑木林)を活かせる
- 菌床栽培よりも風味・食感・肉厚さに優れることが多い
- 差別化された高付加価値商品(プレミアム国産きくらげ)として売り出しやすい
- 資材費が少なく済み、長期的にはコストパフォーマンスが良好
デメリット
- 成長に時間がかかる(収穫は翌年以降)
- 自然環境に依存するため、気象リスクがある
- 手間や技術がやや必要(伐採・駒打ち・ほだ場管理など)
向いている人
・自家山林を持つ農家・林業者
・じっくり育てて「ブランド化」や「体験型農園」なども考えている方
・自然栽培や循環型農業に取り組んでいる方
4-3. どちらを選ぶべき?
比較項目 | 菌床栽培 | 原木栽培 |
---|---|---|
初収穫までの期間 | 約2〜3ヶ月 | 翌年以降(半年〜1年) |
設備・管理 | 室内・ハウス/湿度管理 | 屋外中心/自然環境に依存 |
味・風味・肉厚 | 安定的・やや軽め | 濃厚・しっかりとした肉質 |
初期投資 | 小〜中 | 小(原木が入手できれば低コスト) |
向いている人 | 初心者、副業、小規模農家 | 里山活用、こだわり農家、長期視点型 |
どちらの栽培方法にも魅力があり、経営目的や地域資源、労力、販売戦略によって適したスタイルは異なります。
まずは菌床栽培で手応えを掴んでから、原木栽培に展開するという二段構えも現実的な選択肢です。
5. 収益性と販売の可能性
きくらげは、他のキノコ類と比べて単価が高く、加工や保存がしやすいことから、小規模でも収益化しやすい作物として注目されています。特に国産きくらげは市場での流通量が少なく、「安心・安全な国産品を選びたい」という消費者のニーズと一致しており、販売単価の安定性・差別化のしやすさという点で大きな強みを持っています。
5-1. きくらげの販売単価と収益目安
きくらげは生でも出荷できますが、乾燥品に加工することで単価が大きく上がるのが特徴です。生産量に応じて生・乾燥どちらでも販売できる柔軟性があり、ロスを最小限に抑えることができます。
- 生きくらげ(国産):100gあたり 200〜400円程度
- 乾燥きくらげ(国産):100gあたり 400〜800円以上
- 加工品(炒め物、佃煮、セット商品など):小パックで300〜600円程度
たとえば、菌床1ブロックから生換算で100〜200g程度の収穫が見込めるため、乾燥や冷凍加工を組み合わせることで商品価値を高め、少量でも効率的な収益化が可能です。
小ロットからスタートしても、販路や加工方法次第で安定的な利益を出すことができる点は、他の作物にはない魅力といえるでしょう。
5-2. 販売先と販路の広がり
きくらげは流通量が少ない分、販路を工夫することで“売り先に困らない”作物とも言われています。とくに、以下のような販路で安定した需要があります。
- 飲食店(特に中華・ヴィーガン・ヘルシー志向の店舗)
- 直売所・道の駅(国産・無農薬の表示が有利)
- ネット販売(乾燥品・セット品・ギフト商品)
- ふるさと納税(加工品としても登録しやすい)
- 食品加工業者・弁当業者(冷凍・カット済みでの納品)
また、乾燥きくらげは常温で長期間保存が可能なため、需要の変動に左右されにくく、余剰生産時も無駄になりにくいという点で販売計画が立てやすくなります。
5-3. 小規模経営でも成立しやすい理由
きくらげは、初期投資や広大な土地を必要とせず、管理と加工の工夫次第で“高付加価値×少量生産”を実現できる作物です。たとえば、空き家の一室やビニールハウスの一角でも栽培が可能で、家族経営や副業レベルでも収支が成り立つ設計がしやすいのが特徴です。
加えて、栽培環境のコントロールによって周年出荷が可能になることもあり、季節に左右されずに計画的な経営がしやすいという点でも、営農の柱や副収入源としての活用が進んでいます。
6. まとめ|“地味だけど、堅実”なきくらげ栽培に注目
きくらげは派手な作物ではありませんが、高単価で安定した需要があり、しかも省スペース・省労力で取り組める、非常に堅実な栽培対象です。
特に国産品へのニーズが高まる今、栽培技術や設備が整っていなくても、少量・小規模から始めやすい点は、これから農業を始める方や副業として作物を探している方にとって大きなメリットといえるでしょう。
菌床栽培であれば、空き部屋やハウスの一角を活用して低コストでスタート可能。原木栽培であれば、山林資源を生かした長期的な収穫と差別化が期待できます。
また、加工・保存・販売の自由度も高く、工夫次第で“自分ブランド”の構築や6次産業化にもつなげやすい作物です。
きくらげ栽培は、大きな設備投資や広大な面積がなくても取り組める一方で、しっかり育て、しっかり売ることで、確かな収益に変えられる可能性を秘めています。
「無理なく続けられる収入源を持ちたい」「空いているスペースを有効活用したい」「新しい作物にチャレンジしたい」
そんな方にこそ、きくらげはまさにうってつけの選択肢。
今こそ、“地味だけど堅実”なきくらげ栽培を、自分の手で始めてみませんか?