1. はじめに|イチゴの甘さは“土作り”で決まる?

家庭菜園で人気の果物といえば、やっぱりイチゴ。真っ赤に色づいた実を自分の手で収穫し、そのまま食べる喜びは格別です。けれど実際に育ててみると、「甘くならなかった」「実がつかなかった」といった悩みの声もよく聞かれます。
その原因の多くは、「土作り」にあります。イチゴは見た目以上にデリケートで繊細な植物。根が浅く、土の状態が育ち方や実の味に大きく影響します。どんな土に植えるかで、育ちの良さも、実の甘さも変わるといっても過言ではありません。
実は、イチゴは「水はけがよくて、適度な保水力があり、栄養が豊富で、pHが6.0〜6.5の弱酸性の土」を好みます。つまり、何でも育つ万能な土というよりは、イチゴに合ったバランスの取れた土壌環境を整えてあげる必要があるのです。
この記事では、そんなイチゴの栽培に欠かせない「土作り」の基本について、初心者の方でも失敗しにくく、実践しやすい方法で丁寧に解説していきます。甘くておいしいイチゴを家庭で楽しみたい方は、まずは“土”から見直してみましょう。

2. イチゴに適した土の特徴とは?

イチゴを甘く、元気に育てるためには、まずイチゴがどんな土を好むのかを理解することが大切です。野菜用の培養土をそのまま使っても育たないわけではありませんが、土の性質を整えることで実のつき方や甘さに明確な差が出ます。
イチゴが好むのは、まず第一に水はけが良く、同時に適度な保水力もある土です。これは、一見矛盾するように思えるかもしれませんが、イチゴの根はとても浅く繊細なため、水が溜まりすぎても、すぐに乾いてしまっても、根が傷んでしまいます。排水性と保水性のバランスがとれた“ふかふか”の土が理想です。
また、酸度(pH)も非常に重要なポイント。イチゴが育ちやすいのはpH6.0〜6.5の弱酸性の土壌。この範囲を超えると、根が栄養をうまく吸収できなくなり、生育不良や実の味の劣化につながります。市販の野菜用培養土の中にはアルカリ性寄りのものもあるため、pH調整が必要になる場合もあります。
さらに、土の中の栄養バランスも重要です。特にイチゴは、葉を大きく茂らせるチッソよりも、実をつけるリン酸や根の健康を保つカリウムを重視した肥料配分が求められます。あらかじめ元肥として緩効性肥料を入れておくと、植え付け後の管理も楽になります。


そして、土の“物理的なやわらかさ”も見逃せません。あまりに固い土では、根がうまく伸びず、土中の空気や水も行き渡りにくくなります。赤玉土や腐葉土、堆肥などをブレンドし、ふかふかで空気を含む土を作ることが、おいしいイチゴへの第一歩です。
これらの要素を満たす土を用意することで、イチゴは健康に育ち、甘くてジューシーな実をつけてくれます。
3. 土作りの基本ステップ【プランター・地植え両対応】

イチゴをしっかり育てるには、植え付け前の「土作り」が成功のカギとなります。ここでは、プランターでも地植えでも応用できる土作りの基本ステップを、順を追って解説します。
まずは植え付けのタイミングを確認しましょう。イチゴは秋植え(10月〜11月)が基本ですが、春植え(3月〜4月)も可能です。秋植えの方が株が充実しやすく、翌春にたくさん実をつけやすくなります。時期に合わせて土作りを2週間ほど前から始めるのが理想です。
自分で土を作る場合は、以下の資材を用意しましょう:
- 赤玉土(小粒):水はけと保水のバランスが良い基本の土
- 腐葉土:通気性を高め、微生物の働きも促す
- 堆肥(牛ふん・完熟たい肥など):栄養補給と土壌改良
- 元肥(緩効性肥料):植え付け時に必要な栄養を補う
- 苦土石灰:土の酸度(pH)調整用
家庭菜園向けの基本的な土の配合比は以下のとおりです:
- 赤玉土5:腐葉土3:堆肥2
この比率で混ぜることで、水はけ・保水・通気性・栄養バランスの整った土になります。
すべてをよく混ぜ合わせたら、苦土石灰を100g/1㎡程度混ぜ込み、pHを6.0〜6.5に整えます。石灰を入れたあとは、必ず1〜2週間寝かせてから植え付けましょう。これは石灰と肥料が反応して根を傷めるのを防ぐためです。
【プランターの場合】
- 深さ20cm以上・幅30cm以上のものを選びましょう。
- 底に鉢底石を敷いて、排水性を確保します。
- 配合した土を8分目まで入れ、植え付けスペースを確保。
【地植えの場合】
- 植える場所を30cmほど掘り返し、配合した土をすき込む
- 水はけが悪い土地では畝(うね)を立てて高めに植えるのがおすすめ
肥料は多すぎても少なすぎてもNGです。植え付けの1〜2週間前に、緩効性肥料を適量混ぜ込んでおくのが基本。イチゴはチッソ分が多すぎると葉ばかりが茂り、実つきが悪くなるため、バランスのとれた肥料を選び、表示通りの量を守りましょう。

4. 市販の「イチゴ用培養土」は使ってOK?
「土作りはちょっと大変そう…」と感じた方もいるかもしれません。そんなときに便利なのが、ホームセンターや園芸店で販売されている「イチゴ専用の培養土」です。実際、初心者の方にはこの選択肢がおすすめです。
市販のイチゴ用培養土は、イチゴが育ちやすい弱酸性(pH6.0〜6.5)にあらかじめ調整されており、水はけ・保水性・通気性のバランスも整えられているため、袋から出してそのまま使えるのが大きな魅力です。また、元肥がブレンドされている製品も多く、植え付けの手間を大幅に省けます。
一方で、すべての製品が同じ品質とは限らないため、選ぶ際にはいくつかのチェックポイントがあります。
◆ 市販培養土を選ぶときのチェックポイント
- 「イチゴ専用」と明記されているものを選ぶ
→ 他の果菜類用だとpHや肥料成分が適さない場合があります - pH値が6.0〜6.5の範囲にあるか確認
→ 表記がない場合は販売元のサイトで確認しても◎ - 元肥入りかどうかを確認し、必要なら後から追加
→ 元肥が入っていない製品の場合、別途肥料の準備が必要です - 保水性と排水性のバランスに関する記載があるか
→ 「ふかふか」「水はけが良い」などの説明があれば安心
なお、プランターで育てる場合は、袋の土をそのまま詰めるのではなく、底に鉢底石を敷いて排水性を確保するとより効果的です。また、再利用する土を使う場合は、古い根や病原菌が残っている可能性があるため、必ず消毒や天地返しを行うようにしましょう。
5. 育てながら土の状態を保つコツ

植え付けが終わったらひと安心…と言いたいところですが、イチゴの実をしっかりと甘く育てるためには、育てながら土の状態を保つ管理も欠かせません。イチゴは根が浅く、土の変化にとても敏感な植物。「植えた後こそ、土の管理が大切」という意識が、美味しい収穫につながります。
5-1. 追肥のタイミングとコツ
植え付け時に元肥を入れていれば、最初の数週間は追肥は不要です。開花が始まる頃(おおよそ植え付け後1〜1.5ヶ月)から、緩効性の追肥を少しずつ与えていくのが理想的なタイミングです。イチゴは特にリン酸(実を育てる栄養)やカリウム(根を強くする)を好むため、それらが含まれるバランス型の肥料を選びましょう。
注意したいのは、肥料を与えすぎないこと。チッソ成分が多すぎると葉ばかりが茂り、花や実がつきにくくなる「ツルボケ」状態になってしまいます。月に1回、少量ずつ、株の周りにまくのが基本です。
5-2. マルチングで乾燥・病気対策を
イチゴの実は、地面に触れるとカビが生えたり、汚れやすくなったりするため、土の表面にワラや黒マルチ(ビニール)を敷く「マルチング」が効果的です。
マルチングのメリットは以下のとおり:
- 土の乾燥を防ぐ
- 温度変化を和らげる
- 実が汚れずきれいに育つ
- 雑草防止や病気の予防にも効果的
プランターの場合でも、株の根元に軽く敷くだけでOKです。

5-3. 土の見直しは定期的に
育てている間に、土の栄養バランスやpHが変化することがあります。特に雨や水やりが続いた後は、栄養分が流れてしまったり、pHが下がったりすることも。以下のような症状が見られたら、土の状態を見直すタイミングかもしれません。
- 葉が黄色くなってきた(栄養不足)
- 花が咲かない、実がならない(pHバランスの乱れや肥料過多)
必要に応じて、有機質の追肥を加える、酸度調整材でpHを整えるといった対処を行いましょう。また、簡易pH測定器を使えば、酸度のチェックも手軽にできます。

イチゴの育成では、土に水や肥料を「与える」だけでなく、土の状態を“観察する”ことも重要な育て方のひとつ。ちょっとした変化に気づくことが、トラブルを未然に防ぎ、甘くて美しい実を育てるための秘訣です。
6. よくある失敗と土の見直しポイント

イチゴを育てていると、「花は咲いたのに実がつかない」「育ちはいいのに甘くない」「葉ばかり茂っている」など、思い通りにいかないことがあります。これらのトラブルの多くは、土の状態に何らかの問題があるサインかもしれません。
6-1. 葉ばかりが茂って実がならない
「葉っぱは元気なのに実がならない」という症状は、肥料の与えすぎ(特にチッソ分)が原因であるケースがよくあります。葉の成長を促すチッソが多すぎると、株が“育ちすぎて”しまい、花や実にエネルギーが回らなくなるのです。この状態は「つるボケ」とも呼ばれ、土の栄養バランスの見直しが必要です。
対処のポイント:
・肥料の種類を見直す(リン酸やカリウムが多めの肥料に切り替える)
・チッソ成分の少ない緩効性肥料に変更する
・追肥の頻度を抑える
6-2. 実が小さい、甘くない
せっかく実ができても、「小さい」「酸っぱい」といった不満が出ることもあります。これは、栄養不足や水管理の乱れ、pHバランスの崩れなど、複合的な要因が関係していることが多いです。特にリン酸が不足していると、実が育ちきらず糖度も上がりません。
対処のポイント:
・開花期〜実の肥大期に追肥を忘れずに(リン酸重視)
・乾燥や過湿を避ける(毎日の水やりを観察し調整)
・pH測定器で土の酸度をチェック(6.0〜6.5を維持)
6-3. 花が咲かない、実がつかない
何週間経っても花が咲かない、つぼみすら見えない場合、土が固くなっていたり、排水性が悪いことが原因のこともあります。イチゴは根が浅いため、酸欠や水の滞留に弱く、根がうまく働かないと生育が止まってしまいます。
対処のポイント:
・鉢やプランターの水はけをチェック(鉢底石が機能しているか)
・表面がカチカチの場合は、軽く耕して空気を入れる
・状況によっては、一度植え替えて新しい土に入れ直すのも有効
このように、イチゴ栽培の失敗には必ず原因があり、多くの場合、「土の状態」が根本にあることがわかります。逆にいえば、土を整え、観察し、適切に手を入れていくことで、イチゴは必ず応えてくれる植物です。
7. まとめ|“甘いイチゴ”は土作りから始まる
家庭菜園でイチゴを育てるなら、最初にこだわるべきなのは**苗ではなく「土」**です。イチゴは繊細な植物で、土の状態ひとつで実のつき方も甘さも大きく変わります。どんなに立派な苗を植えても、合わない土ではその力を発揮できません。
イチゴに適した土は、水はけと保水性のバランスが取れた、弱酸性(pH6.0〜6.5)のフカフカな土壌。さらに、栄養バランスも整えておくことで、根がしっかり張り、花や実を安定して育てられるようになります。
また、植え付けたあとも、追肥やマルチング、pHチェックなどを通じて、土の状態を“育てながら守る”意識が大切です。トラブルがあったときも、土の見直しをすることでリカバリーできるケースは少なくありません。
「育てるのが難しそう」と感じていたイチゴも、土作りのポイントさえ押さえれば、家庭菜園でもしっかり甘く、おいしく育てることができます。ぜひこの記事を参考に、自宅でのイチゴ栽培に挑戦してみてください。
甘いイチゴは、丁寧に整えた“土”から生まれる。
その一手間が、きっと収穫の喜びにつながります。
節約上手はもう始めてる!“賢い野菜サブスク“活用術
野菜をムダなく使い切りたい、食費を抑えたいという方には、自分に合った野菜サブスクの活用もひとつの方法です。
コスパやライフスタイルに合わせた選び方をまとめたガイドはこちら。
